「22歳のド素人」がテロ対策トップに…アメリカが「本土テロ」に本気で備えるべき理由

イランが支援するテロの不安が、欧米で再び高まっている。背景にあるのは、イランとイスラエルの紛争と、その流れの中で米軍が6月22日に行ったイラン核施設への空爆だ。 アメリカではFBIが6月に入ってから、親イラン民兵組織ヒズボラの米国内のスリーパー・セル(潜伏テロリスト)の監視を強化している。 国土安全保障省は22日、国家テロ警戒システムを通じて「脅威が高まっている」と警告。税関・国境取締局は、イランが支援するスリーパー・セルの脅威は「過去最高」との認識を示した。 一方、イランは米軍による空爆の数日前、ドナルド・トランプ米大統領宛ての声明で、攻撃を受けた場合にはスリーパー・セルを起動してアメリカを攻撃すると警告している。 6月24日にイランとイスラエルの停戦合意が発効した現状では、イランが分かりやすい形でテロ計画に関与するとは思えない。だがイスラエルやアメリカの攻撃はイラン国民の怒りを増幅させ、反イスラエル感情や反米感情が高まる可能性がある。 直接的に関係するのが、パレスチナ自治区ガザでの戦争に対して、既に膨らんでいる憤りだ。アメリカではこの数週間に、反イスラエル感情が引き金となった襲撃事件が首都ワシントンとコロラド州で起きている。 そんななか、国土安全保障省のテロ対策部門トップに先頃、任命された22歳のトマス・ファゲイトは1年前に大学を卒業したばかりで、対テロ活動の素人だ。脅威の度合いと、対策に割り当てられた資源の不均衡はありありとしている。 米政権中枢では「大国間競争」への転換が支配的な流れになっている。だが大国間競争とテロ対策は相互排他的ではないことを、アメリカの政治家や当局者は認識できていない。 テロの本質は「戦術」だから、テロリストやテロ組織は現代国際政治の一部だ。 アメリカが西アフリカや中央アジアの駐留米軍を縮小・撤退し、大国間競争に専念するというのは理屈が通らない。こうした地域こそ大国間競争の舞台であり、武装組織の脅威にさらされているのだから。それにもかかわらず、対テロ分野の人員や資金は大幅に削減されている。 暴力的な非国家主体と従来型の国家間戦争を隔てる壁も、堅固でなくなっている。テロ攻撃が2国家間の全面戦争に発展しかける事態は、この2年間で2回発生した。 2023年10月7日、イスラム組織ハマスが行ったイスラエルへの越境攻撃は、イスラエルとイランの代理組織ネットワークの終わりの見えない戦いの火ぶたを切った。 今年4月には、係争地カシミール地方でテロ事件が発生し、どちらも核保有国であるインドとパキスタンを大規模衝突の瀬戸際に追いやった。 大きな歴史的前例がある。1914年、オーストリア大公がテロ組織の一員に暗殺されたサラエボ事件は、第1次大戦にエスカレートした。 だが当時と違って、21世紀のNATOは、ウクライナ侵攻をめぐってロシアとの全面衝突に無自覚に突き進んではいない。むしろ、そうなることをはっきりと恐れている。 ただし、ロシアにどう対応するかは喫緊の課題のままだ。NATOやアメリカの動き次第で、今世紀の世界秩序の在り方が決定されかねない。

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