風俗ジャーナリスト・生駒明氏が令和の世にはびこる「美人局」のさまざまな手口について解説する『美人局の事件簿』【後編】だ。本稿ではSNSやメンズエステなどにおける美人局の手口を、過去の事件を例にとりあげる。 ◆大阪で起きた10代少年少女による強盗致死事件 SNSを使った美人局も増加傾向にある。 ’24年3月、大阪で美人局から逃げようとした男子大学生(22)がビルの屋上から転落死するといういたましい事件が起きた。大阪府警は中学2年生の少女(14)と中学3年生の少年(15)を強盗致死の疑いで逮捕。さらに事件当時13歳だった中学2年生の少年を児童相談所に通告した。 少女と中学2年生の少年がSNSで17歳の架空の女性になりすまし、男子大学生をビルに呼び出した。そこに少年たちが現れて金を脅し取る計画だった。 同じような事件が、静岡市、横浜市、松江市でも起きている。SNSは必ずしも異性との出会いに特化したツールではないが、他人の画像を流用するなどして女性を装うことが可能なため、犯罪に利用されやすい。厳しい本人確認が求められないものも多く、比較的簡単にアカウントが作れるので〝加害者の年齢が非常に若い〟ことも特徴である。 メンズエステでも美人局は頻発している。 今年3月5日、30代の客に「女性従業員の体に触れた」と因縁をつけて計50万円を脅し取った元ユーチューバーでメンズエステ経営者の男(31)と、共謀した大学生の男(20)が恐喝の疑いで警視庁に逮捕された。 ユーチューバーの男はかつて痴漢撲滅を掲げて私人逮捕系ユーチューバーとして活動していた。二人が所属する美人局グループは、これまで約240人の被害者から総額8000万円近くを巻き上げていたという。 ◆「客を興奮させて触らせろ」 ’22年8月には、美人局を行うためにメンズエステを設立した経営者と女性従業員が逮捕されている。 オーナーは女性従業員に対し「あえて密着して、客を興奮させて触らせろ」と客に禁止行為をさせるよう指示。その様子を別室で監視カメラでチェックしていたオーナーや店長らが、部屋に押し入って客を恐喝していた。 被害者となった客の一人は店長らから「本当なら200万だけど、50万でええわ。払わないと警察沙汰になるけどどうする?」「刑務所行くことになるよ」などと凄まれ、その場で10万円を払い残りは分割で支払うという示談書を作成させられた。客は施術を受ける前に「女性に触ったら200万円を支払う」という同意書にサインをしているため、示談金が支払われることに特に疑問を抱かなかったという。 〝禁止行為をしない〟と同意しながら行為に及ぶ被害男性にも落ち度はあるが、メンズエステは客を呼び込むために過激な施術を提供している店が多い。グレーゾーンでの営業を悪用し、客の下心につけ込んだ卑劣な犯行である。事前にネット上の口コミや掲示板で健全店かどうかを確認するなどの対策が必要だ。 新宿の立ちんぼによる美人局も悪質である。 女が客とホテルに行くときにスマホの通話をオンにしておき、共犯の男に部屋番号が分かるようにしておく。女は部屋で金を受け取った後、服を脱ぐのに抵抗。そこに共犯の男が突入し「俺の女を無理やり強姦しようとしている」と難癖をつけ、客の顔や身分証を写真に撮ったうえ、ATMで30万円ほどを引き出させ脅し取る。さらに翌週、撮った写真をネタに恐喝するのだ。 新宿ではかつて美人局グループが暗躍していたという。息のかかった女が客と交渉成立するや、ホテルまで尾行する。女から撮影を持ちかけておいて、「盗撮しただろう」などと〝迷惑料〟をふんだくる。女からの連絡で現場に来たという設定になっているが、実際には公園の陰で待ち構えていたのだ。 他に「勝手に中出しされた」「未成年だった」などさまざまなパターンの美人局がある。「女がホテルを指定してくる」「女が携帯でどこかに連絡している」ケースは美人局の確率が高いので要注意だ。 ◆うますぎる話には警戒を 風俗店でも美人局は行われている。 よくあるのは、デリヘル嬢が本番行為を促し、店の男性と一緒に罰金を請求してくるというもの。「従業員が強姦されたと言っているから警察に通報する」「従業員は泣いていて仕事を辞めたいと言っている。どうしてくれるんだ」と怒鳴られ、暗に金銭を要求される。 女性側から誘惑されて乗ってしまった結果、すぐに店の従業員が登場した場合は、美人局の可能性が高いと考えて間違いない。運転免許証や名刺を取り上げられたうえ、写真まで撮られ、後日、家族や会社に暴露すると脅迫してくるケースもあるという。 ここまで前後編にわたって紹介してきたように、美人局の手口は多様化し、巧妙になっている。対処方法は、怖い男に捕まったら「すぐにその場を離れること」。それができないときは「警察に通報する」と告げること。これだけで相手が引き下がることもある。 だが、突然知らない男が部屋に乗り込んでくるという異常事態にうまく対応するのは至難の業だろう。最も大事なのは「美人局に引っかかる前に予防すること」である。巧みな誘い文句や過度なサービスは警戒するのが賢明だ。 取材・文・写真(2~4枚目):生駒明