見知らぬ異性に執着する「特異な心理」3度目の事件で見えた限界 神戸女性刺殺から1カ月

神戸市のマンションで8月、住人の女性(24)が刺殺された事件の容疑者は、過去に別の女性へのストーカー行為で2度も「有罪」となりながら、同様の手口をエスカレートさせ、最悪の事態に至った。すでに精神状態を調べる鑑定留置に入ったが、あくまで刑事責任能力の有無を見極めるのが目的だ。事件から20日で1カ月。見知らぬ女性に執着心を抱き、後をつけ回す特異な心理の解明や再発防止に今回の鑑定は直結せず、現行の刑事・司法手続きの「限界」も垣間見える。 面識のない女性を尾行し、襲ったとして殺人容疑で逮捕された谷本将志容疑者(35)は、8日から約3カ月にわたる鑑定留置に入った。これまでの調べで、事件2日前から女性に目をつけ、「好みのタイプと思って後をつけた」という趣旨を供述。事件3日前には別の女性を尾行していたことなども判明し、特定の人物を標的にする「従来型」のストーカーとは異なるのが特徴だ。 谷本容疑者は令和2年12月にストーカー規制法違反罪などで罰金の略式命令を受け、4年9月にはつきまとった女性の首を絞めて傷害罪などに問われ、神戸地裁で懲役2年6月、執行猶予5年の有罪判決を言い渡された。地裁は「再犯が強く危惧される」としながらも、反省の態度を示しているとして執行猶予とし、保護司らの指導のもとで更生を図る保護観察もつけなかった。 ■判決前に調査する仕組みを 犯罪心理に詳しい専修大の松嶋祐子准教授は、谷本容疑者について「特定の人に執着して付け回すストーカーとは違い、性的動機に基づいている可能性がある」と指摘。「性犯罪の再犯防止プログラムを受講させるためには動機が性的欲求に基づくものと判断する必要があるが、心理学の専門家が関わらなければその判断は難しかったのでは」と話す。 松嶋氏は、判決までに再犯を防ぐ適切な処遇を選ぶ仕組みが必要だと指摘。効果的な事例として、裁判の段階で心理学などの人間行動科学の専門家が調査し、裁判官に報告する米国の「判決前調査制度」を挙げる。 同制度では、犯罪者の生活環境や精神状態、経歴や交友関係、習慣などを専門家の視点から調査。量刑や再犯防止プログラムの選定などに用いているという。日本でも少年事件では人間行動科学などの知識を持つ職員が生活状況などを調べるが、成人事件で判決前にこうした調査をする仕組みはない。

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