2022年以降、東京・新宿の歌舞伎町にある大久保公園では立ちんぼが急増します。「令和の今に街娼が流行るなんて」と大多数のオトナは驚いたものの、売買をするのも世の中の“オトナたち”であったのは事実です。一時期は売り手、買い手、冷やかしに公園周辺は人が溢れ、外国人観光客でさえ悪い意味での興味・関心を寄せていました。 現在は逮捕が相次ぎ、以前ほどの盛り上がりを見せてはいないものの、立ちんぼの根絶は極めて困難。理由は、逮捕者が出て閑古鳥が鳴く→再び売買をする人々が現れる、の繰り返しだからです。 街頭に立つ女性たちの実態も気になるところですが、“全盛期”を知る元・立ちんぼさんの話はみなさんも更に気になるはず。例の公園が大盛り上がりした頃に、街娼一本で稼いだM美さん(23歳)は当時の様子を「異様な光景だったけど、私にとっては日常だったから」と語るのです。 ■公園周辺に立ち始めたきっかけは、「勧誘」から 10代より夜職歴があったM美さんですが、1つの店に腰を据えて働くことが大のニガテでした。もともと頑張っていた昼職バイトも遅刻やバックレ常習犯だったため、夜の方でも同じミスを連発。面接は通れど、ある一定の期間を過ぎるといつもお店から干されてしまうのです。 様々な風俗店の入退店を繰り返した末に行きついたのが、立ちんぼでした。当時の彼女は推し活にハマっており、仲良くなったファンの女性から紹介をされたそうです。(以下『』内、M美さん談) 『夜職しながら推し活してたと言っても、勤怠が悪くて稼ぎもヒドいから毎日カツカツでしたよ(笑)日銭握りしめてライブに行ってた感じで、そのことを仲良いY子にボヤいたら“(立ちんぼを)やる?”と言われ。その子もちゃんと働けない系の人で、自分と似ていたから一緒にやろうってことで、誘いを受けたんです』 2023年の上旬、大久保公園には驚くほどの人間が溢れていたと言います。夏に公園で働き始めたため暑さとの戦いでしたが、客付きは非常に良かったとのこと。夕方頃から街頭に立ち、終電より前に上がれば最低でも日給3万円が手に入ります。客をこちらで選べて面倒な人間関係に縛られず、シフト提出もなし。自由に働けて稼げる旨味を知れば、他の仕事をする気が起きないのは当然のことでしょう。 M美さんも最初は立ちんぼ+風俗店orガールズバーの体験入店という二刀流スタイルを取ったものの、徐々に“立ちんぼ専業”へ移行します。 『結局これが一番ラクで稼げるって思うと、店に在籍するのがめっちゃ面倒になるんです。身バレを気にしていなかったわけじゃないけど、それよりもラクさとお金を取った感じ?盗撮とか動画回してる人がいたら、ソッコーで顔隠してましたけどね』 ■友人との決別が立ちんぼ卒業のきっかけに 徐々に友人と共に働く機会が減り、M美さんは1人で公園に立つ日が増えました。その頃のY子は別の仕事にも手を出し、推し活界隈での金遣いが相当荒くなっていたのです。 『ライブ現場はおろかホストにも行き始め、立ちんぼのみならず援助交際にも手を染めました。立ちんぼをしている最中にアヤしい斡旋業者と知り合いになったことを、私も聞かされていなかったんですよね。時間が経った頃に“やらない?”と同じ感じで勧誘され、そこで初めて彼女の新たな仕事を知りました』 グレーゾーンから更なる危険な方へ移り行くのは“夜職あるある”の1つですが、M美さんは誘いに乗りません。なぜなら立ちんぼでの稼ぎで満足していたほか、友人の変わりようを見て、先に進むことへの危険性を察したからです。 『立ちんぼから離れるきっかけはこの手の勧誘が増えたことと、Y子とモメたから(笑)顔を合わせればしつこく危ない仕事を勧めてくるし、ライブ現場でもお金持ちアピールをしてて痛々しくなり……。とにかく、人が変わっちゃったんですよ。 立ちんぼもやばい商売ってことは百も承知だったけど、そこかしこで援助交際とか海外出稼ぎに飛び始める子たちって一気に雰囲気変わるんですよね。似たような時期に、公園で知り合った顔見知り程度の女の子にも別業種に誘われました。恐らく間には紹介料が発生していて、業者もどんどん新しい人を増やしたいのだと思います。 2024年になっても立ちんぼ界隈は盛り上がっていたけど、冷やかし客が増えたし、働く女の子も多くなったので競争率が爆上がりに。おまけに警察の取り締まりもキビしくなったので、友人との決別を機に公園から抜けました』 M美さんは現在も夜職を続けていますが、立ちんぼを卒業してからはきちんとお店に在籍しているとか。遅刻癖をすぐに治すことは難しいけれど、身の危険などを考慮すると「今の方がよっぽど良い」そうです。 『基本的に運が良い方だったから、客とのトラブルには遭わなかったんです。でも悲惨な経験をしてる子もたくさんいましたしね。あとはY子を始めとした変な勧誘とか、謎の斡旋業者と知り合いになるとか、立ちんぼは本当に危険が満載でした。よく1年以上やっていたと自分でも思いますよ(苦笑) 冷静に考えるとあんな人前で売買して、そこに男女が群がって……っていうの、マジで異様な光景ですよね。でも、私にとっては一時期あれが日常だったんだよなぁ。うまく言えないけど人間の“慣れ”ってコワいし、感覚を麻痺させる。もう二度と戻る気はないので、ちゃんと店で頑張ってみます』 M美さんのインタビューを聴きながら闇に落ちていくのがいかに容易かを、改めて納得させられました。個人売買は、常に危険と隣り合わせ。簡単な気持ちで飛び込む女性がこれ以上増えぬよう、世の中はもっと注意喚起を強めるべきだと心から思います。 ◆たかなし亜妖(たかなし・あや)元セクシー女優のシナリオライター・フリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ゲーム会社のシナリオ担当をしながらライターとしての修業を積み、のちに独立。現在は企画系ライターとしてあらゆるメディアで活躍中。