同居していた交際相手の女性=当時(24)=を刺殺したとして殺人などの罪に問われながら、公判で「(女性が)襲ってきたのを避けようとした結果、勢いで刺さった」と無罪を主張した被告。しかし、東京地裁(戸苅左近裁判長)は15日、供述を「信用できない」として懲役18年の判決を言い渡す。判決が指摘したのは、被告が詳細に語った事件の経緯からにじむ「虚構性」だった。 ■襲ったのは女性から? 「人を殺してしまいました」。令和5年1月13日午後5時過ぎ、警視庁蒲田署に出頭した梶川寛人被告(24)は、こう切り出した。 自宅で同居していた女性が死亡しており、死因は包丁で左胸を一突きされたことによる出血性ショック。傷は胸椎(背骨の一部)の内部まで達していた。 殺人未遂容疑で逮捕され、後に殺人罪などで起訴された被告。公判で弁護側は、事件当日の朝、被告が女性に別れ話を切り出したところ、女性は「死ね!」と言いながら包丁を取り出して被告に覆いかぶさってきたと説明した。 抵抗する被告と女性は、もみ合う中で体勢が逆転。「お前が死ぬか?」と被告が挑発すると、女性は「分かった」とつぶやき、突然手の力を抜いた。包丁は女性の左胸に真っすぐ突き刺さり、被告は慌てて刃を引き抜いた、というストーリーだ。 《こんなんなるって思わんかった。命奪って本当にごめんなさい》。出頭するまでの数時間で、被告は家族ら宛てにメモを書き残した。法廷で読み上げられた文面には、女性がわずか数十秒で息絶えたことなども記されていた。 ■嫉妬心と独占欲 2人の間に何があったのか。 検察側の冒頭陳述などによると、出会いは4年6月ごろ。女性が勤務する都内のキャバクラに、被告が客として訪れたことがきっかけだった。間もなく交際に発展したが、1カ月後には互いの異性関係を巡って別れ話が浮上するようになる。 《私以外の女に優しくしたら自殺する》。法廷で証拠として提示されたLINE(ライン)の履歴からは女性の強い嫉妬心がうかがえる。 一方の被告は、女性が風俗店でも勤務していることを不満に思っていた。《他の人と体が触れるのやだ》。独占欲からの痴話げんか、別れ話、仲直り…。9月からは女性宅で同居を始めるも、関係はもろかった。