自動車盗難はなぜ減らないのか。10月31日、出入国管理及び難民認定法違反、建造物侵入、窃盗の罪に問われたベトナム籍の男の第9回公判が、さいたま地裁(林寛子裁判官)で開かれた。自動車盗を繰り返し、2500万円もの報酬を受け取っていた被告は懲役8年の求刑に「とても受け入れられません」と主張。あきれた言い分に、傍聴席にいた被害者は怒りをあらわにした。 チャン・ドゥック・ルオン被告は、不法残留2年半の間、埼玉や栃木など広範囲で車や現金の窃盗を繰り返した。犯罪は組織的に行われ、被告は指示役と連絡を取りながら実行役を担っていたとされる。 検察側は被告が果たした役割は大きく、「刑事責任は重大」と断じ、懲役8年を求刑した。中古車販売店など8か所の事務所に侵入し、52台の車や現金467万円の窃盗に関与。報酬として2500万円を受け取っていた。39台は被害者のもとに戻ったものの、被害者が自力で探し出すなどしており、「被告人が進んで還付したものではない」と指摘。「被害店舗は厳重な処罰を望んでいる」と胸中を代弁した。 弁護側は公訴事実を認め、「指示役からの指示を受けて行動したもの。主導的立場にあったとは言えない」と述べた。また、前科・前歴がないことから「更生の可能性がある」とし、寛大な判決を求めた。犯行グループの実態を供述し、メンバーの逮捕や車両の発見に協力したことも付け加えた。 傍聴席には被害者の1人で、ホンダカーズ野崎(栃木・大田原市)の松本正美店長の姿があった。 昨年8月に11台の盗難被害に遭った。防犯カメラの映像等によると、少なくとも7人のベトナム人が店舗に侵入。事務所の金庫を破壊して車のキーを奪うと、駐車場にあった車を次々と盗み出した。 SNSの拡散や協力により、すべての車両を発見して取り戻したが、犯行はどのように行われたのか、少しでも背景や動機を知るために裁判所に足を運んだ。 ところが、目の前で語られた被告の言葉は耳を疑うものだった。 裁判官から「最後に言っておきたいことはありますか?」と問われた被告は、証言台の前で静かに口を開いた。 まずは謝罪から始まり、1億円を超える被害金額について「とても大きいです。僕が一生かけて働いてももらえないと思います」と受け止めた。 そして、技能実習生として適法に入国したものの、勤務先で暴力を振るわれ、我慢できなくなって逃げ出した経緯を告白。「逃げてからも最初は普通の仕事を一生懸命してきました」と語った。犯罪に手を染めたのは、在留資格更新の審査が厳格化されたほか、母国で父が亡くなり、生活が困窮したことが理由とし、「借金を返し終わった後、窃盗をやめることを決めました」と、逮捕される直前に足を洗っていたと訴えた。 一方で、量刑については、納得のいかない様子でこう語気を強めた。