斎藤元彦兵庫県知事が疑惑告発文書問題で失職し、出直し知事選で再選されてから17日で1年となる。選挙戦ではSNSが大きな影響を及ぼし、真偽不明の情報や誹謗(ひぼう)中傷が氾濫(はんらん)。選挙の公平性を阻害するとして、国会では法改正も含めた対策の議論が始まったが有効な手は打てず、10月の宮城県知事選などでも同様の状況がみられた。専門家からは「急速なSNS社会の広がりに、法律が追いついていない」との指摘が上がる。 昨年11月の知事選には政治団体「NHKから国民を守る党」党首で、今月9日に名誉毀損(きそん)容疑で兵庫県警に逮捕された立花孝志容疑者が出馬。自身の当選を目指さず、斎藤氏を応援する「2馬力選挙」を展開した。 告発文書を作成した元県幹部や疑惑を追及する県議らに対する立花容疑者の批判には、真偽不明や検証困難な情報も含まれていたが、SNSで爆発的に拡散。中傷被害を招き、竹内英明元県議は選挙後に辞職し、その後死亡した。立花容疑者の選挙手法を巡っては、昨年7月の東京都知事選でポスター掲示枠を販売し、選挙とは無関係の内容などを掲示したことも物議を醸した。 従来はなかった問題が相次いで浮上し、国会では対策を議論。今年5月施行の改正公職選挙法では、選挙ポスターでの品位保持規定が盛り込まれた。だが、SNS対策や2馬力選挙については条文に盛り込まれず、「必要な措置」を講じると付則に明記するにとどまった。 2馬力については鳥取県が独自に対策を導入。5月の県議補選や7月の参院選「鳥取・島根選挙区」の立候補者に、自身の当選を目的として立候補を届け出る旨の宣誓書提出を要求した。 一方、SNSに関しては今月、自民、立憲民主両党の幹事長が与野党協議会での議論加速を申し合わせた。ただ、表現の自由との両立のほか、SNSを通じた外国勢力による選挙介入への対応など課題は多い。 宮城県知事選では、大規模太陽光発電所(メガソーラー)などを巡る誤情報やデマが拡散。6選を果たした村井嘉浩知事に対する誹謗中傷もあった。SNS対策を巡っては、4月に誹謗中傷投稿への対応を運営事業者に義務付ける「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)が施行されたが、選挙戦でのデマや誤情報には十分対応できていない面もある。 法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)は「現行の公選法はSNSを想定していない」と指摘。情報の真偽に関わらず、動画の再生回数に応じて収益が上がるといったビジネスモデルなどへの対応が後手に回っているとし、「選挙に関わるコンテンツには収益を出さないなどの対策が必要ではないか」としている。