近畿2府4県の優秀な警察官をたたえる第139回「近畿の警察官」(産経新聞社提唱、近畿地区信用金庫協会など協賛)に、府警からは高槻署刑事課の岸本啓治警部補(53)が選ばれた。来年で勤続30年。警察人生の半分以上を刑事として過ごしてきた。「ありえないことに直面するのが刑事の宿命」と、殺人など凶悪事件の最前線で捜査にあたってきた。被害者支援にも尽力してきた真摯(しんし)な姿が認められての受賞。表彰式は27日、大阪国際交流センター(大阪市天王寺区)で開かれる。 「府民が安心して暮らせるような仕事をしたい」。生まれも育ちも大阪。地元で警察官になる夢は学生時代から強く抱いていた。大学卒業後、採用試験を突破できず一時は民間企業に就職したが、夢は変わらず、半年で退職。3回目の挑戦でようやく警察官への道が開けた。 多くの凶悪事件の捜査に携わってきたが、子供が被害者になる事件は忘れられない。摂津署で勤務していた令和3年9月、3歳の男児に熱湯を浴びせ殺害したとして、男児の母親の交際相手の男が殺人容疑で逮捕された。自らも3児の父。わが子とも年の近い男児の被害に「ありえないことだ」と胸を痛めた。ただ、「ありえないこと」を捜査するのが刑事の宿命。「気持ちは熱くても頭は冷やせ」。先輩刑事からの言葉を胸に、初動捜査の指揮を執り、事件解決の大きな力となった。 平成28年からは4年半、被害者支援にも携わった。経済的損失を受けた犯罪被害者などへの給付金に関する業務を担当。多くの捜査に携わってきた経験を生かし、迅速な被害者支援につなげた。 自らは「ダメ刑事だった」と謙遜するが、失敗しても逃げずに乗り越えてきたから今がある。「生まれつきの刑事はいない。みんな汗かいて涙流して刑事になるんや」。先輩刑事からの教えは、後輩を育成する立場となった今、若手刑事に紡いでいる。 職場では刑事の鋭いまなざしが光るが、家族の話題になると顔がほころぶ。休日、3人の子供と公園で遊ぶ時間が何よりの幸せだという。「この子らが大きくなっても安心して過ごせる大阪にしたい」。刑事としての目の奥には、父親の優しさが隠れていた。(木下倫太朗)