社説:人身取引と性搾取 被害根絶へ法規制の強化を

まるで物のように生身の人間が扱われる実態は断じて許されない。被害の根絶が急務だ。 12歳のタイ人少女を東京都の個室マッサージ店で働かせたとして、労働基準法(最低年齢)違反の疑いで経営者の男が先月、逮捕された。浮かび上がった国際的な「人身取引」の闇に、社会は向き合わねばならない。 調べでは、少女は母親と15日間の「短期滞在資格」で来日、母親に店で働くよう促された後、置き去りにされ、性的サービスを強いられた。1カ月ほどで約60人の客を相手にした。 少女は自ら出入国在留管理局に助けを求め、人身取引の被害者として保護された。孤独の中、耐え難い性的搾取に遭った少女の苦痛は計り知れない。 母親は台湾で拘束され、警視庁は児童福祉法違反容疑で逮捕状を取得した。背景には貧困問題が絡み、仲介組織の存在も指摘される。警察間で協力し、実態解明に全力を挙げてほしい。 売春や強制労働を目的に、暴力や脅迫で身柄を引き渡す人身取引は、18歳未満は暴力などを受けなくても被害者とされる。2000年に国連で採択された議定書で定められた。重大な人権侵害にほかならない。 政府の報告書によると、国内での被害者は増加傾向で、昨年は66人。41人は18歳未満、外国籍は8人だった。決して外国人の問題ではない。 ホストクラブの売掛金を回収する目的で、客だった女性に売春させるケースも該当する。自身が被害者と認識していなかったり、パスポートを奪われ監視下に置かれたりする事例もあり、発覚は氷山の一角だろう。詳しい実態調査を求めたい。 浮き彫りとなったのは、性的搾取問題に甘い日本の対策だ。 日本では05年、刑法に人身売買罪が新設されたが、要件の厳しさなどもあり、適用は少ないと指摘される。 立憲民主党は、営利やわいせつ目的で人を買い受けた場合、「1年以上10年以下」とする拘禁刑の上限を、引き上げる改正法案の提出を今国会で目指す。 絶えぬ被害の抑止には、「買う側」の責任をより問わねばならない。相手が未成年の場合は、児童買春・児童ポルノ禁止法で罰せられる。だが、売春防止法では売買春を禁止するものの、買う側への罰則はない。 高市早苗首相は先月、衆院予算委員会で、規制のあり方を検討するよう法相に指示した。厳罰化で需要を絶ち、買春側は加害者であるとの認識を広げなくてはならない。 被害者の支援や保護はもちろん、心身の自由や自己決定権など人権教育の充実も必要だ。支援団体からは、包括的な法整備を求める声が上がる。 日本は国連や米国から対策の不十分さを指摘されてきた。事件を重く受け止め、強化に向けて議論を深めてほしい。

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