「女はいつも自分をこぼす…」女性のお悩み200件から見えたもの

とあるウェブマガジンで、ミドル世代女性のお悩み相談を担当しています。 読者から寄せられる悩みは、家族・キャリア・人間関係などさまざま。アラフォーからアラフィフが抱える「モヤモヤごと」は本当に幅広く、この世代の女性が背負う荷物の多様さを実感します。 先日ついに、コラム連載が200回を更新しました。毎週毎週よくネタ切れしないなあと我ながら感心しつつ、ずらりと並んだ記事一覧を見ていると、「悩みの型」がいくつかあることに気づきます。 「家事を頑張っても家族が無関心。評価されないし、手伝ってもくれない」 一番多いのはこの型。“家事”を“仕事”に、“家族”を“同僚や上司・部下”に置き換えると職場での悩みになり、介護や恋愛でも同じパターンが繰り返し登場します。 これを、「評価されないのに頑張る必要はない。やりたくないことはやらなければいい」と突き放すことは簡単です。でも、そんなに単純な話ではないのですよね。これは一種の、「女の業」問題なのだと思います。 つい、手を出してしまう。 つい、面倒をみてしまう。 つい、声をかけてしまう。 やりたいとかやりたくないとかの次元ではない「つい」のスイッチが、私たち女性には備わってしまっているのではないでしょうか。 このスイッチが先天性のものなのか後天性のものなのかは分かりません。これを「母性」などと呼ぶ人にはげんなりしますが、独立独歩のDINKSで育児も介護もしていない私ですら、このスイッチを持つことを自覚しています。 ◇「こぼしている性」としての女性 女はいつも自分をこぼしている。子供、男、また社会を養うものとして、女の本能の凡てが女に、自分を与えることを強いる。時間も、気力も、想像力も、女の場合は凡て機会さえあれば、一つでも洩る箇所があれば、そういう方向に流れ去る。――「海からの贈物」より 大西洋単独横断飛行を初めて成功させたチャールズ・リンドバーグの夫人、アン・モロウ・リンドバーグ。(大昔に読んだときには「リンドバーグ夫人」と表記されていましたが、改めて手に入れた文庫本には彼女自身の名前が印刷されていて、なんだか感慨深いです) 自身も女性飛行家の草分け的存在であり、本書以外にも著書がある文筆家でもあります。ヨーロッパで反戦運動にも関わっていた彼女が、戦後1955年に執筆したのがこの「海からの贈物」。 有名人の夫がいて、5人の子ども(長男は1歳8カ月で誘拐・殺害されるという悲劇に遭っています)を育てる母であり、物書きという仕事もあったアン。女が背負いうるほぼすべての役割を負っていたアンの「自分をこぼす」というまさにこぼれだすような表現に、現代にも脈々と受け継がれる女の業を感じます。 「奪われる」でも「差し出す」でもなく、「こぼす」。 そこには、(自分を含め)誰かの意思は無いのかもしれません。助けが必要そうな人がそばにいると、自然と、自分という盃を傾けてケアを注いでしまう。だからこそ、女は意識して自分の盃を満たすようにしておかないといけないのだ……。そんな女のもの悲しさ、愛ゆえだと自分を納得させようとする心理、葛藤を、どこまでも詩的につづるこのエッセー。国境や時代を超えてベストセラーになっている理由がよく分かります。 ライター・コラムニストとして、女性に向けてものを書くことが多い私。アンに比べれば影響力などないに等しいですが、「こぼしている性」としての女性にそっと寄り添い、わずかばかりでも心を満たす一助になるように、文章を書いていきたいと思っています。 ◇強い女の裏にある性(さが) ただ、目の前に要求を抱えている人がいると、わたしはどうしてもそこに応えようとしてしまう。――「ひとりになること」より 強く華やかな存在感が鮮烈な、国際政治学者の三浦瑠麗さん。その発言でたびたび物議を醸していた彼女だが、とりわけセンセーショナルに報じられたのが夫の逮捕劇からの離婚。学生結婚し一女にも恵まれ、元親友のおしどり夫婦で有名だった二人が、なぜ別れることになったのか。強い女としてのパブリックイメージの裏に隠された、男に対峙(たいじ)したときの女の性(さが)をつづる。 ◇「女は全てを手に入れられる」はわな? 結局、幸福を提示するために、これらの女性たちはまずは、自分たちが仕事と子育てのあいだの「正しい」バランスをうまく調整できることを確証しなければならない。――「ネオリベラル・フェミニズムの誕生」より Facebook(現Meta)の元COOシェリル・サンドバーグをはじめとする「パワーウーマン」のエッセーや発言を分析し、現代女性を「ケア労働とキャリアの両立」という難問に追い立てるネオリベラル・フェミニズムの潮流をひもとく一冊。 「女はすべてを手に入れられるはず」「女だからと言って、何もあきらめる必要はない」というメッセージは、女性へのあたたかいエンパワーメントに見せかけたわなかもしれない。(コラムニスト・梅津奏)

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