地域再生の鍵は…孤立する人「支える仕組み」 北九州・中3殺傷1年

北九州市小倉南区のファストフード店で中学3年の男女2人が殺傷された事件から1年が過ぎた。殺人容疑などで逮捕、起訴されたのは同区長尾2の平原(ひらばる)政徳被告(44)。 中学生が狙われた凄惨(せいさん)な事件は、地域に深い悲しみと痛みをもたらした。事件から1年。あの日を思い返し、二度と起こさないために再起した地域の姿を、住民や専門家の声から探った。 ◇声かけできていたら… 「『今日、カツ丼作ったから食べてや』。そんな声かけからアプローチできたかもしれない」。37年間で16万食以上の弁当を生活困窮者らに届け、「ひとりにしない」支援を続けてきたNPO法人「抱樸(ほうぼく)」の奥田知志理事長(62)は、北九州市小倉北区の勝山公園でいつものように炊き出しをしながら、そう思いを巡らせていた。 平原政徳被告(44)は、事件2日後の16日から3日続けて、自宅から約1・5キロ離れたそば店に出前を依頼し、カツ丼やざるそばを注文していた。奥田理事長はこの報道に触れ、「専門的なアプローチではなく、『おなかすいたならこれ食べて』っていう普通の関わりから心を開いてくれていた可能性もあった」と気づかされたという。 抱樸が掲げてきたのは「伴走型支援」だ。深刻化する社会的孤立に向き合うため、途切れずにつながり続けることを大切にしてきた支援のあり方である。「もし3日に1回、弁当を届けに来る人がいたら、『俺は社会に生きている』と思えたかもしれない」 抱樸は2026年夏以降、特定危険指定暴力団「工藤会」の本部事務所跡地(小倉北区)に福祉拠点施設「希望のまち」を開設する予定だ。現在、工事が進められている。理想は家族の機能を社会化し、お互いに助け合える居場所づくり。生活困窮者や子ども、障害のある人など誰もが目的がなくても立ち寄ることのできる場所を目指している。 一方で、奥田理事長は、問題を抱え、生きづらいと感じている「追い詰められている人々」に対して、「自己責任だから、家族はまだしも他人は関わらない方が安全だ」とする意識が強まっていると指摘する。まだ追い詰められた人々が地域にいる。そう思う住民たちにとって「安心感はまだ戻っていない」。 平原被告の自宅があった長尾校区のまちづくり協議会の藤田比呂志会長(67)は、「逮捕後、公園に子どもたちは戻り始めたが、保護者が子どもたちを車で送迎する光景は続いている。まだ不安な気持ちは皆さん持っているのだと思う」と話す。「顔の見える地域を取り戻すために、いつでも誰でもどこでも『ながら見守り』を皆でしようと呼びかけている」といい、人とつながろうとする姿勢は抱樸と同じだ。 ただ、今回の事件が示した課題は、抱樸や地域住民だけで背負えるものではない。奥田理事長は「二度と同じことを起こさせないために、皆で引き受け、支えていける仕組みが必要だ」と訴える。市や警察、福祉、地域住民などが一体となり、社会的に孤立する人とどれだけ関わる人を増やせるかが、地域再生の鍵を握る。【井土映美】

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加