(文中敬称略) 私は、Amazonの電子書籍Kindleの読み放題サービス、Kindle Unlimitedを便利に使っている。以前Amazonは好かないと書いたが、Kindle Unlimitedは別で、月額980円の元は完全に取っていると思う。 一番ありがたいのは、雑誌によってはバックナンバーを遡って10年以上もの分を一気読みできることだ。これも以前書いた。 そして、他の人がやっているかどうかは知らないが、私のもう一つの使い方は、Kindle Unlimitedに集まっている個人出版、中でも同人誌的マンガを一気読みすることだったりする。 多いのは、生活エッセーマンガである。「どこそこに旅に行きました」「こんなことをやって、なんとかの試験を突破しました」あたりから始まって、キャンプや自転車など趣味のハウツー本、育児日記や日々の料理、引っ越しの顛末(てんまつ)といった日常本など――つまりは生活をそのまま題材にした同人誌的マンガが目立つ。うつ病、がん、脳梗塞、さらには希少な難病などについての闘病記も少なからずある。 もともと私は、活字があれば、それが電車内の広告であろうが、市販薬付属の説明書であろうが読んでしまう性質なので、読み放題ならどんどん読む。 が、正直に申し上げると本当に面白いものは少ない。めったにないと言ってもいい。あらかたは、薄味で、興味深くはあるが、再読に耐えるほど面白くはない。「他人に読ませる」ためにはこう見えていろいろな技術があり、それが不足しがちなのだと思う。 ●人が陰謀論にハマっていく過程が では、Kindle Unlimitedでこうしたアマチュア出版のKindle本を読むことが無意味かといえば、そんなことはない。 Kindleを使って自主出版をする人は、それなりに語りたいことを持っている人だ。Kindleに集うアマチュア出版を読むことで、そんな人々の今の時点における心象風景を知ることができる。個人の出版であるが故に、世間の諸々の事柄を、どういう枠組みで捉えているのかが、「読ませる技術」が足りないためなのか、非常にはっきりと表れている。 そしてその中でも特に興味深いのは、「ごく普通に生活している人が、陰謀論に引き寄せられていく経緯」だ。ずるずると引っ張り込まれていくその心の機微が、こうした出版物からかなりはっきりと読み取れる、ということだ。 陰謀論とは、現実の物事から現実には存在しない誰かの意図を読み取ってしまうことだ。典型例は、自分が気に入らない社会のあれこれを「表に出てこない陰の政府(DS:Deep State)のせい」にしてしまうものだ。他責の向け先はDSに限らない。古くは「ユダヤ人のせい」のように人種差別と結びついたし、「ビル・ゲイツのせい」のように個人を攻撃するもの、「ダボス会議に集まる大富豪のせい」のように現実に存在する組織のせいにするものなど、様々である。 共通しているのは、自分が咀嚼(そしゃく)できない、理解の及ばない事柄を、「誰か悪意を持つ者のせい」ということにして安心したい、心のありようだ。