【ソウル＝桜井紀雄】韓国国会（定員300）は7日夕、本会議で尹錫悦（ユン・ソンニョル）大統領が3日夜に「非常戒厳」を宣布したことは違憲だとして、野党側が提出した弾劾訴追案を採決した。採決に際し、保守系与党「国民の力」の議員のほぼ全員が退出したため出席者が定足数の200人を下回り、訴追案は7日夜に廃案となった。 ■「任期短縮」受け入れ これに先立つ7日午前、尹氏は国民向けの談話を発表し、戒厳宣布で国民を不安にさせたとして「心からおわびする」と謝罪した。自身の任期を含む今後の政局安定策を与党に「一任する」とも表明。国政運営は与党と政府が「責任を持って行う」と述べ、自身は政権運営の一線から退き、任期短縮も受け入れる考えを示唆した。弾劾訴追案の可決を回避させる狙いとみられる。 訴追案の廃案を受け、与党が早期の大統領退陣策をまとめられるかが焦点となる。ただ、外交や安全保障に責任を持つ大統領による政権運営が事実上中断することで、対日外交への影響も避けられない。 4日未明の戒厳解除後、尹氏が公式に立場を表明したのは初めて。尹氏は戒厳宣布は「大統領としての切迫感によるものだった」と釈明しつつ、「法的、政治的責任問題を回避しない」と強調。二度と戒厳宣布は行わないと約束した。 ■議場に戻ったのは数人 野党側は192議席で、与党から8人以上の造反者が出るか注目されたが、出席した与党議員は当初1人だけだった。禹元植（ウ・ウォンシク）議長は、与党議員に議場に戻るよう呼びかけたものの、戻ったのは数人にとどまった。 弾劾訴追案を巡っては、与党の韓東勲（ハン・ドンフン）代表が6日、戒厳の際、尹氏が韓氏ら主要政治家を逮捕しようとしたと批判し、「大統領の速やかな職務停止が必要だ」と主張。韓氏に近い議員らが賛成に回るとの予測が出ていた。尹氏が任期について与党に一任すると表明したことを受け、野党主導の弾劾よりも与党が収拾策を主導する方が得策と判断したもようだ。与党は採決直前に党として反対する方針を決めた。 韓氏は7日、「大統領の正常な職務執行は不可能な状況だ」とし、「早期退陣は不可避だ」と強調した。野党は弾劾訴追案を再提出する構えで、捜査当局は内乱罪で告発された尹氏の捜査を進める方針。政局の混迷は当面続くことになる。