埼玉県飯能市の住宅で2022年12月に親子3人が殺害された事件は25日、発生から3年となる。近所の男性が殺人などの罪で起訴されたものの否認するなど、いまだ真相は判然としない。この間、精神鑑定などが繰り返され、裁判員裁判の初公判がようやく来年2月、さいたま地裁で開かれる。関係者によると、犯行に至った経緯の解明に加え、刑事責任能力の有無が争点となる見通しだ。 事件は3年前のクリスマスの朝、閑静な住宅街で起きた。自宅にいた米国籍のビショップ・ウィリアム・ロス・ジュニアさん(当時69歳)と妻の森田泉さん(同68歳)、帰省中だった東京都在住の長女、森田ソフィアナ恵さん(同32歳)の3人が、おので切りつけられるなどして殺害され、部屋に火を付けられたとみられている。 ◇検察・弁護側双方が精神鑑定で長期化 事件当日に逮捕され、その後、殺人や非現住建造物等放火などの罪で起訴されたのは斎藤淳被告(43)。初公判は来年2月16日。関係者によると、判決は3月中に言い渡される見通しだ。被告は逮捕後から「知らない」「自分じゃない」などと供述し、犯行を否認している。 公判が始まるまで時間を要した主因は被告の精神鑑定だった。被告の逮捕後、さいたま地検は刑事責任能力の有無を判断するため、23年2月以降に2度にわたる鑑定留置を実施した。計10カ月にわたる鑑定の結果、刑事責任を問えると判断し、起訴に踏み切った。 一方、起訴後には弁護側が改めて鑑定を請求し、裁判所がこれを認めた。鑑定の過程で被告が事件前からつづっていたとみられるノートなども提出された。追加の鑑定が行われたことで、公判が始まるまでの期間はさらに延びたという。 証拠の扱いにも慎重な対応が求められた。現場周辺の防犯カメラには事件当時の様子が映っており、血痕が付着した衣類や凶器なども押収されている。 こうした複数の証拠が裁判員に強い心理的負担を与える「刺激証拠」とみられることから、提示の仕方を工夫するなど、負担を軽減するための対応が検討されているという。捜査関係者によると、衣類は被告宅で隠すように保管されていた。凶器も事前に準備していたとみられる。 ◇「真実が知りたい」と近隣住民 被告は、被害者宅から約60メートル離れた戸建て住宅に一人で暮らしていた。事件前の22年1~2月には、被害者宅の車を傷つけたとして器物損壊容疑で3回逮捕されている。 被害者宅は閑静な住宅街に当時のまま残されている。家の生け垣には、花や缶コーヒーが供えられていた。近くの60代女性は「近隣同士でどうしてこんな事件が起きてしまったのか。公判で真実が知りたい」と話した。 ◇識者「『被害妄想』関連した可能性も」 精神科医で犯罪心理学に詳しい片田珠美さんは「精神鑑定は、精神障害の有無に加え、善悪を判断できたかの『判断能力』と自己の行動をコントロールできたかの『制御能力』を慎重に見極める。被告が否認を続けるなど協力的ではない場合、鑑定の材料が集まりにくく、多大な時間を要することもある」と指摘する。 その上で、「近隣トラブルが凶悪事件に発展する背景としては、被害妄想が関係する場合がある。加害者側が勝手に何らかの危害を加えられたとの思い込みが強まると、『やり返しても良い』と自己正当化して、攻撃がエスカレートしやすい」と話した。【加藤佑輔、田原拓郎】 ◇斎藤被告と親子3人殺害事件を巡る経過表 2022年1~2月 埼玉県飯能市の被害者の車を傷つけたとして県警が器物損壊容疑で3回逮捕 12月25日 被害者宅で朝に事件発生。夜に米国籍のビショップ・ウィリアム・ロス・ジュニアさん(当時69歳)に対する殺人未遂容疑で県警が逮捕。その後、殺人容疑で送検 2023年1月16日 妻の森田泉さん(同68歳)への殺人容疑で再逮捕 2月6日 夫婦の長女、森田ソフィアナ恵さん(同32歳)への殺人容疑で再逮捕 2月~12月 さいたま地検が刑事責任能力の有無を判断するため、2度にわたり鑑定留置を実施 12月21日 刑事責任を問えると判断し起訴。その後、弁護側が改めて精神鑑定を請求、裁判所が採用した 2026年2月16日 さいたま地裁で初公判