〈六代目山口組にとって、‘25年は「節目の一年」となった。神戸山口組との間で続いてきた分裂抗争に、一方的にピリオドを打ったのだ。激動の年を、『山口組分裂の真相』などの著書を持つノンフィクションライター・尾島正洋氏が振り返る〉 国内最大の暴力団「六代目山口組」が‘15年8月に分裂し、離脱した「神戸山口組」との間で争われてきた対立抗争は10年が経過した。 これまでに拳銃を使っての殺人事件などが起きたほか、一時期は連日のように敵対する事務所へ発砲やダンプなど大型車両の突入、火炎瓶の投げ込み、繁華街での乱闘騒ぎが起きており、数十人が死亡した。ただ、今年は4月に六代目山口組が一方的に抗争の終結を宣言。そのためか、以降は大きな事件の発生はなく比較的、平穏に推移しつつ年末を迎えた。 分裂時の構成員は六代目山口組が約6000人、神戸山口組は約2800人と勢力差はほぼ2対1。当初は加入者が相次ぎ、神戸山口組の方に勢いがあった。だが、‘19年秋ごろから神戸山口組幹部が射殺されるなど凶悪事件が続発。六代目山口組が優勢となり、’24年末時点で警察当局がまとめた最新データによると、六代目山口組は約3000人に対して、神戸山口組は約120人へと大きく減少している。 ◆‘25年にも起きた抗争事件 神戸山口組は分裂からの10年間で、95%が離脱したことになった。組織犯罪対策を担当している警察当局の幹部は、「今年の年末時点での構成員のデータでは、神戸(山口組)側は二桁となっている可能性がある」との見通しを示しており、双方の間の差はさらに拡大することになりそうだ。 今年の対立抗争事件は、1月に発生した神戸市内の神戸山口組組長の井上邦雄(77)の自宅の放火事件が最後とされている。六代目山口組系の元幹部が拳銃を所持して井上の自宅の敷地に侵入。ガソリンをまいて車2台を焼損させ、建造物等以外放火と銃刀法違反容疑で逮捕された。 対立抗争は鎮静化した状態で年末年始を迎えることになったが、分裂騒動をウォッチしてきた首都圏で活動している指定暴力団幹部はこう語る。 「ヤクザの社会では義理事といって、親分の襲名披露などの慶事、幹部の葬儀などの弔事ではケンカはしないという不文律がある。めでたい正月は基本的にはおとなしくしているものだが、何も起きないという保証はどこにもない」 ◆「特定抗争指定解除」には時間がかかる 前出の警察当局の捜査幹部は、「六代目(山口組)が終結宣言を出したとしても、『はい、そうですか』というわけにはならない。目的は特定抗争指定の解除などがあるのだろうが、対立抗争状態にあることには変わりはない。当面は指定の継続となるだろう」と強調する。 警察当局の幹部がここで指摘する特定抗争指定暴力団とは、指定暴力団同士が対立抗争状態にあり一般市民に重大な危害が加えられる恐れがある場合に、暴対法に基づいて都道府県公安委員会が指定した組織をいう。この規定は‘12年の第5次暴対法改正で新設された。 特定抗争指定暴力団に指定されると、公安委員会が「警戒区域」を定め区域内では、同じ暴力団組員がおおむね5人以上で集まることなどが禁じられる。違反すると中止命令などの行政命令を経ずに即座に逮捕されることになる。警戒区域は大阪市や神戸市、名古屋市などに設定されている。 六代目山口組と神戸山口組は‘19年秋以降に対立抗争が激化しているとして、’20年1月に指定された。六代目山口組は、神戸山口組からさらに分裂した「池田組」と「絆會」との間でも対立抗争状態にあるとして、それぞれとも特定抗争指定暴力団に指定されているため、「トリプル指定」の状態にある。 特定抗争指定暴力団については、九州に拠点を構える「道仁会」が同様に分裂し、「九州誠道会」との間で対立抗争事件が繰り返された際に、‘12年12月に指定されたのが初だった。この対立抗争では双方で十人以上が死亡、一般人の被害者も出た。この際にも道仁会と九州誠道会の双方が’13年6月に抗争の終結を宣言。しかし、特定抗争指定暴力団の規制の解除は1年後の‘14年6月だった。こうした前例があるため、六代目山口組と神戸山口組の指定の解除はまだ見通せないのが実情だ。 対立抗争が鎮静化するなか、六代目山口組は今年4月、約20年にわたりナンバー2として組織の運営にあたってきた若頭の髙山清司(78)が相談役に退く人事が明らかになった。後任の若頭には若頭補佐の竹内照明(65)が就任した。六代目山口組組長の司忍(83)、竹内のツートップはまたもや、いずれも弘道会出身者となった。 六代目山口組が着々と組織固めを進める一方、神戸山口組は表立った動きはない。組織の縮小は否めず、双方の格差はさらに大きくなっていく傾向にあるのが実態となっている。(敬称略)