事実を書いても、訴えられる――。それが名誉毀損裁判の現実だ。ユニクロから2億2000万円の巨額の名誉毀損訴訟を起こされながらも完勝したジャーナリスト・横田増生氏は『潜入取材、全手法』にて裁判対策の重要性を論じた。本稿では、『週刊文春』の記者として数々の裁判を経験し、『ルポ 超高級老人ホーム』を上梓した甚野博則氏と共に、“名誉毀損訴訟の歪み”について語り合う。(企画・構成:ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子) ● 名誉毀損は“勝敗”よりも 争点の“割合”で見る ――大きな企業を取材相手にすると、裁判を起こされることもあります。ユニクロから提起された名誉毀損裁判はどういう内容だったのでしょうか。 横田増生(以下横田):『ユニクロ帝国の光と影』(2011年、文藝春秋)の内容について、何章かあるうち国内の労働の話を書いた章と海外の労働の話を書いた章で裁判になりました。実は、これ以外の章は結構いいこと書いてあるんですよ。 請求額は2億2000万円で、相手は文藝春秋社。著者である僕は訴外でした。30カ所ほどの記述について訴えられたのですが、争点として残ったのは2カ所。一つはユニクロの店長の長時間労働について、もう一つが海外にあるユニクロの下請け工場での深夜労働に関する記述です。 ユニクロの店長の長時間労働の件は関係者から陳述書をもらい、真実であると認められました。海外の下請け工場の件は、取材時の写真や、何カ所かで話を聞いていたのもあって真実相当性があると認められました。工場で働いている方に名刺を渡している写真なども撮っていたんです。 それに、ユニクロは僕の取材を5回以上拒否しているので、それも結果に影響したのではないかと思います。結果、相手方の請求は認められませんでした。 甚野博則(以下、甚野):名誉毀損裁判だと、記事の本筋じゃない部分で訴えられてお金を取られたりしますよね。しかも、相手方は仮に請求額の1%しか認められなくても「勝ちました!」と勝利宣言する。 裁判のことを知らない人たちからすると、「ほら、やっぱり記事がでたらめじゃないか」という空気になってしまうこともあります。 横田:本当にそうですね。争点が30カ所あるうち1カ所でも負けたら、相手の勝利になってしまう。でも、それって違うじゃん、って思うんです。少なくとも新聞社などの記者は、どのくらい争点があったかを書いてほしいし、100回でも200回でも一つひとつ解説した方がいい。 「30カ所争点があって29カ所は真実相当性を証明しました、でも1カ所は認められませんでした。これで10万円です」って。新聞だったらたった2行付け足すだけ。 日本の名誉毀損裁判って訴えられた側が真実相当性を証明せなあかんから、訴えられた側に不利にできているんです。アメリカでは逆で、公人だとほとんど名誉毀損は成り立たない。 1970年代にモントゴメリー市警察の暴力を訴える意見広告を載せたニューヨークタイムズが同市警察本部長のサリバン氏から名誉毀損で訴えられたことがありました。この裁判で連邦最高裁判決は、原告側が記事が嘘だと証明しないと名誉毀損を認めないという考えを示しました。 逆に、イギリスは日本のように記事を書いた側が真実であることを立証しなければなりません。国によっても違うけど、日本の名誉毀損裁判については、まずは新聞社の記事に2行足していこうと僕は言いたいですね。