韓国で非常戒厳 尹大統領が陰謀論に傾倒か 保守層も驚く「まるで70年代」 澤田克己

想定外の事態に誰もが驚き、戸惑った。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が12月3日夜に宣言した「非常戒厳」は、民主主義の先進国になったという韓国人の自尊心を打ち砕く衝撃的な出来事だった。 韓国ではたびたび戒厳令が敷かれてきた。1961年の軍事クーデターで権力を握った朴正熙(パク・チョンヒ)の下では、日本との国交正常化に反対する世論を抑え込むためだったり、権力基盤を強化する「上からのクーデター」を狙ったりという目的でも戒厳令が出された。 だが、87年の民主化で時代は変わった。93年に大統領となった金泳三(キム・ヨンサム)が軍内の私的組織を徹底的に排除したことで、クーデターを心配する人はいなくなった。 ◇「不正選挙」の疑念 現在の韓国軍では民主化後の世代が主流だ。市民に銃を向けるなどという時代錯誤の行為をすれば、後に厳しく指弾されると肌感覚で分かっている。現場に動員された司令官が「国会議員の逮捕を命じられたが、明らかに違法だと考えて従わなかった」と語ったのも当然だろう。 問題は、最高権力者である大統領が陰謀論にはまっていたとしか考えられないことだ。軍の特殊部隊が選挙管理委員会の庁舎に突入したことが、その証左となった。与党が惨敗した今年4月の総選挙での大規模な不正を疑っていたとみられている。 民主化以前は実際に選挙不正が多かったからだろうか。韓国では今も、選挙で負けた側から不正選挙を疑う声が出る。ただしそれは、酒席での憂さ晴らし、あるいは、近年の韓国で急増する政治的なユーチューブ番組でしか聞かれない陰謀論だとみなされている。 ◇勝った野党への反感 今回の事態で最もショックを受けたのは、保守本流を自認する人々かもしれない。 尹氏はこれまでも過激な言動を繰り返し、「極右のユーチューブばかり見ている」とうわさされてもいた。昨年からは、演説などで野党を「反国家勢力」だと決め付けるようになった。

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