1月15日午前10時すぎ、東京・杉並区のアパート前で部屋の明け渡しの強制執行に訪れた男性2人が、住人である男に刺され、家賃保証会社の社員、小栗壽晃さん(61)が死亡した。東京地裁の男性執行官も襲われ、けがをして病院に搬送。命には別条はなかったが、刃物が背中に貫通した状態だった。 近隣住民は「(心臓マッサージを)5、6人でやっていた。そうそう、向こうから見たらね。あそこにテープ(規制線)が張られているから入れないの、現場に」と語る。 殺人未遂容疑の現行犯で逮捕されたのは、職業不詳の山本宏容疑者(40)だ。犯行後、山本容疑者は約600メートル離れた場所で、警察官に取り押さえられた。 捜査関係者への取材によると、山本容疑者は「自分の人生がどうなってもいいと思って2人を刺した。自宅を追い出されると金もないし、どうやって生きていいのか想像できず自暴自棄になった」と供述しているという。 一体、山本容疑者に何があったのか、そしてなぜ殺害にまで及んだのか。山本容疑者の部屋は、物件情報によれば、家賃6万円台の部屋だった。 近隣住民は「いつここに住んできたのか……。結構激しい、出入りが。(いつ容疑者が入ったかは)全然わからない」と話す。 山本容疑者は調べに対し、コロナ以降は無職だったと供述している。保証会社によれば、数十万円程度の家賃滞納があったという情報もある。 賃貸に詳しい不動産仲介業者Aさんに話を聞くと、「裁判所から何回か通知があったと思う。それも無視し続けて行政の執行になったということ。僕らの管理しているところだったら1回は僕が行って、『払えよ』と言って、それで(支払い)なかったら保証会社に事故報告入れる。そこから保証会社が督促し出す。それで保証会社が電話したり、お手紙書いたりして。1年ぐらい多分、あの事件もずっとやり取りしていると思う」とのことだった。 Aさんによれば、多くは家賃保証会社と契約し、家賃滞納による債務は保証会社が背負うため、滞納金の催促は保証会社が行うという。保証会社の収入源は「更新料。保証会社に(1年で)1万円とか」(Aさん)。初期費用として家賃と共益費の50%前後が支払われるほか、更新料として1年に1万円程度の収入があるという。 事件当日、ここで何があったのか。詳しい状況が徐々に明らかになった。当日の午前10時ごろ、関係者がアパートに到着し、10時10分ごろ山本容疑者の部屋を訪問した。訪問したのは、東京地裁の執行官と保証会社の4人。山本容疑者はダンボール1箱を持って出てきて、「荷物はこれだけです」という内容の話をしたということだ。 部屋を訪れた関係者によると、カセットコンロに使うガスボンベが数本見えたと証言。シューっとする音がして黒い煙が出ていたため、身の危険を感じ、アパートから路上に逃げた。するとその後、破裂音が聞こえ、そこに刃物を持った山本容疑者が現れ、路上にいた2人を刺したという。 不動産仲介業者Aさんは、今回の事件は決して起きてはならないが、同業者の間ではいつか起きてもおかしくないと言われており、Aさん自身も気をつけていたという。 「1回あったのが、耐刃防護衣を着ていったことがある。やっぱり入居者の素性って、何年か住んでいたらわかる。『この人クレーマーだな』。僕らなら絶対警察来てもらう。相手がどんな人でも、こういうこともあり得るから」(Aさん) 不動産引き渡しなどの強制執行は2024年だけでも、司法統計によれば、3万8000件以上報告されており、その中には過去、今回のような事件も起きている。2001年新潟で住宅の明け渡しをめぐって、執行関係者が日本刀で刺され1人が死亡、2人が重傷を負った事件も起きた。 元執行官は「警察を連れて行くかどうかの基準はなく、それぞれ自分の経験値で判断する。大抵の執行官は身の危険を感じたことがある。自傷行為もあり、包丁に警戒するため、キッチンに見張りを置くなど、細心の注意を払う必要がある」と実情を明かす。 さらにAさんによれば、家賃滞納で退去を命じられた人の情報は、いわゆるブラックリストとして一定の保証会社間で共有されており、新たに賃貸契約を結ぶ際のネックになるとされ、どこにも行き場がない人の相談に乗ったことがあるという。 「『家を追い出されて、無いんです。明日から住めますか』とか。それで『何した?』と言ったら、『家賃滞納して、もう本当どうしようもないんです』。その時、保証会社どこをとばしていったか聞く。『こことここはコンピューターが繋がっていないから、ここの保証会社だったら、確実におっちゃんが通したる』って。僕のお客さんで、家賃滞納した。もう1年おきに転々。でもその子、最後には漫画喫茶で暮らした」(Aさん) 強制執行について、元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏は、「やはり危険性はある。強制執行は大事なものを差し押さえられたり、今回のように立ち退きで住む場所がなくなったりするため、抵抗する者が出てくる。特に今回は、容疑者が1人住まいであり、孤立していた。社会・行政には不満があったと思う。警察にも強制の家宅捜査があり、常々自傷・事故防止を考えている。例えば、刃物が刺さらない防刃チョッキを装着したり、警棒・拳銃を装着したりして、執行している」と語る。 秋山氏によれば、要請があれば、警察が立ち会ってくれるそうだ。「警察は住民の生命、身体、財産を守る。私も実際経験したことがある。税務署からの強制執行だったが、『滞納者の家に行く』と依頼があり、私と部下数人が帯同した。そうすると、やはり何もなく無事執行できた」。 (『ABEMA的ニュースショー』より)