東京五輪にまつわる贈賄容疑で罪に問われている角川歴彦氏が、国を相手に訴訟を起こした。裁判では、被疑者を長期にわたり勾留する、いわゆる「人質司法」の違憲性を訴えている。「後進国」とも批判される日本の刑事司法の問題点を、佐藤優氏と語り合った──。 ■最初に差し入れたのはノートと座布団だった 【佐藤】10月8日から、角川さんの公判が始まりました。東京オリンピック・パラリンピックにまつわる贈賄容疑ですが、冒頭陳述で無実と冤罪(えんざい)を主張されました。 【角川】東京地検特捜部から任意の取り調べを受けていたさなかの2022年9月、佐藤さんから担当編集者を通じてご連絡いただきましたね。「特捜部は角川会長まで逮捕すると思います。これは『人質司法』になりますよ」と。 まさかそのときは自分が逮捕されるなんて思ってもいませんから、正直言ってピンと来ませんでした。しかし結果として佐藤さんの言った通りになり、逮捕直後に拘置所に送られ、実に226日も勾留されることになりました。 【佐藤】角川さんの事件は私や鈴木宗男氏が逮捕された事件と同じく、訴追ありきでストーリーを作って逮捕に持ち込み、拘置所に長く勾留する。国策捜査の典型的なやり方です。 【角川】加えて佐藤さんが3つの忠告――「会社の弁護士ではなく、個人で弁護士をつける」「任意聴取で検事に話したことを弁護士に検証してもらう」「メディアには何も話してはいけない」――をしてくださっていたのですが、自分は無実だと確信があったこともあり、メディアの代表取材を受けてしまいました。社員との接触も会社の弁護士に禁じられていましたから、「安心してほしい、私は無実だ」とメディアを通じてメッセージを送りたかったんです。私の真意をKADOKAWAの社員に伝えたかった。 【佐藤】しかし、検察はそう受け取りません。社内で絶大な権力を持つ会長が、社員に対し「俺が会見で言ったことと同じことを検察に言うんだ」と口裏合わせを間接的に指示したと受け取るんです。会社の弁護士もこのストーリーに乗って、会社を守るために会長を切り捨てて「社内では角川会長の鶴の一声ですべてが決まっていました」なんて話を作っていく。 【角川】後から特捜部出身の弁護士に、「角川さん、会見なんてやるから逮捕されたんですよ」と言われて合点がいきました。佐藤さんは、私が逮捕・勾留されるとすぐに、ノートと座布団を差し入れるようアドバイスしてくれましたね。