第78回カンヌ国際映画祭にてパルム・ドール(最高賞)を受賞した、イランの巨匠ジャファル・パナヒ監督の最新作「シンプル・アクシデント 偶然」のポスターと予告編が公開された。 不当に刑務所に投獄された人々が、復讐を果たそうと試みる姿をスリリングに、ユーモアたっぷりに描いた復讐劇。パナヒ監督自身が、二度にわたって投獄された経験と同房で出会った人々のリアルな声から着想を得て、物語へ織り込んだ、スリラーの最高峰だ。 かつて不当な理由で投獄されたワヒド(ワヒド・モバシェリ)は、ある偶然によって、自分に酷い拷問をした看守らしき男に出会う。咄嗟に強引な手段で男を拘束!荒野に穴を掘って男を埋めようとするが、男のIDカードを見ると、復讐相手と名前が違う。男も、人違いだと言う。実は投獄中、目隠しをされていたワヒドは、男の顔を見たことがなかった。男は、本当に復讐の相手なのか?確信が持てなくなったワヒドは、いったん復讐を中断し、同じ男に拷問された友人を訪ねることにするが……。 2010年から反政権を理由に禁錮6年の有罪判決を受けていたパナヒ監督。映画制作や海外渡航が20年間禁止されていたが、2023年に海外渡航禁止が解かれ、最初に着手した本作品で2025年にカンヌ国際映画祭に正式参加し、イラン映画としては28年ぶりに最高賞を受賞。「チャドルと生きる」(2000)でベネチア国際映画祭金獅子賞、「人生タクシー」(2015)でベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞、そして本作のパルム・ドール受賞により、世界三大映画祭すべての最高賞を受賞するという快挙も成し遂げた。反骨精神あふれるパナヒ監督の作品は国代表に選出されることはなく、オスカーとは無縁だったが、本作はフランスとの共同製作により米アカデミー賞の国際長編映画賞部門で見事フランス代表となり、脚本賞と国際長編映画賞にノミネートされている。 カンヌ渡航前に「イランに戻れなくなるのでは?」という質問に対して、「この映画は製作されなければならなかった。私が完成させたわけだから、どんな結果も甘んじて受け入れる」と語っていたパナヒ監督。そんな中、2025年12月、アメリカで本作のプロモーション活動中だったパナヒ監督は、明確な容疑が開示されないまま、イスラム革命裁判所から突如判決を受けた。内容は<反体制プロパガンダ活動を行った>とする欠席裁判での懲役1年に加え、2年間の渡航禁止、さらに政治・社会団体および派閥への参加禁止という厳しい措置である。さらに、1月31日には本作でパナヒ監督とともに共同脚本を手がけ、アカデミー賞脚本賞ノミネートにも名を連ねるメーディ・マームディアン氏が、イラン政権の行為を非難する声明を発表後逮捕されるという事態も起きている。 予告編は、停めたバンから男の足を掴み、引きずり出そうとするワヒドの姿から始まる。かつて自分の人生を台無しにした男を偶然見つけ、咄嗟に拘束したワヒド。溢れ出す怒りのまま叫びながら猛然と荒野に穴を掘り、“エグバル”を生き埋めにしようとするが、「人違いだ!やめろ!」と訴える男の言葉に、ふと我に返る。<あの男は、本当に復讐相手なのか?>実はワヒドは、エグバルの顔を一度も見たことがなかったのだ。真相を確かめるため、ワヒドはかつて不当に拘束された仲間たちを訪ね歩く。疑惑、怨念、怒り、葛藤、愚かさ、そしてユーモア――幾重にも重なる人間の感情が絡み合い、その行方から目が離せない映像となっている。 映画は5月8日から、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開。