国家の主権と国境がないがしろにされ、“虐殺”すらも行われる時代になった。こうしたことが当たり前になれば、19世紀的な世界へと逆戻りしてしまう。 ◇冷戦終結後で最も深刻 世界は今、まさに「戦争の世界」に入っている。2022年2月に勃発したウクライナ戦争、昨年10月に勃発したガザ紛争、今年9月に一気に拡大したイスラエルとヒズボラの戦闘、そしてスーダンやコンゴ民主共和国の内戦──。ウプサラ大学(スウェーデン)の「ウプサラ紛争データ」によれば、22年1年間の軍事衝突は55を数え、「戦争の激しさと数の多さは、冷戦終結後で最も深刻」とされている。 深刻さは戦争の数だけではなく、その被害と国際秩序に与える影響にも表れている。ロシアによるウクライナへの一方的軍事侵攻は、「国家主権を尊重し、他国に勝手に侵略して領土を増やしたりしない」という第二次世界大戦以後、それなりに守られてきた最も重要な国際的ルールを、国連安保理の常任理事国であるロシアが破り捨てたことを意味する。 このようなことが当たり前になれば、「民主主義」の国であれ、王国や首長国、一党独裁などいわゆる「専制主義」の国であれ、基本的にはこれまで守ってきた「国家の主権と国境の尊重」という世界の大原則が崩れ、いつでも隙(すき)あらば他国に攻め込むような19世紀的世界に逆戻りしてしまう。それは世界全体の秩序を崩壊させ、世界経済をも苦境に陥れるだろう。 さらに、ロシアのウクライナ侵攻から1年半後、パレスチナ自治区ガザ地区のイスラム組織「ハマス」がイスラエルに越境攻撃をかけ、それに対してイスラエル軍がガザ住民に対してすさまじい軍事攻撃と経済封鎖をかけている。イスラエル軍のガザへの空爆と地上軍の侵攻により、この1年間で4万人を超えるパレスチナの人々が直接的な軍事攻撃により殺害された。 ◇西側の二重基準にも批判 そして、今年7月の医学雑誌『ランセット』によれば、ガザに住む220万人の住民のうち20万人近くが、軍事攻撃に加え栄養不足やけが、病気など間接的な理由も含めてすでに亡くなっているという。外からの支援物資も必要量に比べてわずかしか届かず、国連は今後50万人以上のガザの住民が餓死する危険があると警告。ガザを担当する国連の人権監視の専門家は、「ガザで起きていることは虐殺だ」と明言している。