「持たせるだけでは意味がない」ストーカー加害者へのGPS装着、専門家が指摘する制度設計の課題

ストーカー殺人を防ぐために、加害者にGPS機器を装着させる──。政府が7月28日の犯罪対策閣僚会議でまとめた緊急対策に、新たな被害者保護措置の検討が盛り込まれた。 「一定の危険性がある加害者にGPSを装着し、被害者に接近した場合に被害者らへ通知する仕組みを想定しており、ストーカー規制法の改正も視野に入っています」 こう語るのは、全国紙の記者。背景には、2026年3月に東京・池袋の「サンシャインシティ」で、勤務中の女性が元交際相手の男に刺殺された事件がある。男は2025年12月、ストーカー規制法違反の疑いで逮捕され、翌月に略式起訴された後、釈放されていた。 「警視庁は同法に基づく禁止命令を出していましたが、事件を防ぐことはできませんでした。医療機関への受診も勧められていましたが、男は拒否していました」(前出・全国紙記者) ストーカー被害は深刻化している。警察庁の統計によれば、2025年のストーカー規制法に基づく禁止命令は全国で3037件。10年連続で増加し、過去最多を更新した。禁止命令のうち約6割は、緊迫性が高い場合に加害者への聴聞(言い分や弁明を聴く手続き)を経ずに出される「緊急禁止命令」だった。検挙件数も1546件と過去最多となり、警告や命令だけでは危険な接近を止めきれていない現状がある。 GPS装着について、ストーカー被害者の支援と加害者更生に取り組んできた、NPO法人「ステップ」の栗原加代美理事長が語る。 「とにかく被害者の命を守るためには、かなり有効ではないか考えています。ストーカー被害に遭うと、被害者側が自宅を移し、職場を変え、生活を大きく変えざるをえないことが多い。被害者だけが逃げて、加害者は何も損をしないような状況が続いてきました」 GPSによって加害者の接近を把握できれば、被害者が生活のすべてを捨てて逃げる負担を減らせる可能性があるという。 一方で、GPSは万能ではない。2023年からストーカー加害者へのGPS装着制度が導入されている韓国では、被害者の2キロ以内に近づくと通知される仕組みがある。装着者による報復犯罪が起きていないとされる一方、装着の判断が遅れたり、対象外とされたりした場合には、事件を防げないケースもある。また、プライバシーや人権への配慮から、確定判決前の暫定措置には慎重な判断が求められ、許可割合が限定的になるという課題もある。 「装着対象の線引きは避けて通れません。警察へのストーカー被害の相談件数が多い中で、すべての加害者にGPSを装着することは現実的ではありません。だからこそ、逮捕歴や禁止命令後の再接近など、危険性を見極める基準を明確にする必要があります。 同時に、携帯電話のように加害者の外出時にGPSを『持たせるだけ』のような仕組みでは実効性を欠く恐れがあります。『身体と一体化』させないと意味をなしません」(栗原さん、以下同) 被害者の安全に本当に結びつく設計が求められる もう一つの鍵が、加害者への更生プログラムだ。政府の緊急対策にも、一定の加害者に治療・カウンセリングの受診を義務づける仕組みや、刑事施設でのストーカー対応プログラムの整備が盛り込まれている。現状では受診は任意であり、禁止命令を受けた加害者のうち治療につながる割合は低いままだ。 「GPSで接近を防ぐだけでなく、執着や支配の根に働きかけなければ、再犯リスクは残り続けます。加害者の多くは当初、自分を『被害者』だと考えていることが少なくありません。『相手が悪い』『自分は傷つけられた』という意識のままでは、自らの加害性に向き合うことは難しいのです」 更生プログラムでは、相手を変えようとするのではなく、自分の思考や行動を変えることに焦点を当てることが求められる。 「加害者は変われないというのが一般的な認識ですが、実際には、更正プログラムによって変わることも多いのです。刑罰だけでは表面的な抑止にとどまり、内側の認識が変わらなければ同じ行動が繰り返されかねません。 GPSは、被害者に危険を知らせ、加害者の衝動的な接近や報復を抑える『抑制装置』になりえますが抜け穴もあります。必要なのは、危険な加害者には確実に接近を防ぐ措置を取り、同時に更生プログラムで『自分は被害者だ』という認識を問い直させることです」 被害者だけに転居や退職という負担を押しつける社会を変えるためにも、GPS装着と更生支援を車の両輪として進める制度設計が問われている。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加