古びた切手。その裏に、弟が書いた小さな字が残っている。「くるべからず」。こっちへ来るな、という意味だ。書かれたのは1960年代半ば、北朝鮮北部の国境の町である。当局に見つかれば、命はなかった。日本で手紙を受け取った兄は切手を剥がし、密かに隠した――。1959年から1984年まで、9万3千人余りの在日コリアンとその家族の日本人妻らが海を渡り、当時、「地上の楽園」と宣伝されていた北朝鮮へ入国した。日本政府も後押しした国家プロジェクトだった。当事者が高齢になるなか、今、証言を残す試みが進みつつある。「北朝鮮帰国事業」に加わった人たちの思いを追った。(取材・文:本橋敦子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)