ログイン失敗を31秒で修正──AIが侵入から身代金要求まで自律実行、ランサムウェア防御もAIが担う時代へ

AIエージェントが組織のサーバーに侵入し、データを暗号化・削除した上で、身代金を要求する文書まで作成した。人間が担当したのは、標的を選び、最初のログインに必要な情報をAIに渡すことだけだった。データを使えなくして金銭を要求する「ランサムウェア攻撃」の大半を、AIが自律的に実行したのである。インターネットにつながる病院や銀行、電力・水道の事業者にとって、攻撃のあり方が大きく変わる転換点だ。防御側もAIを使い、攻撃者より先にシステムの弱点を見つけて塞ぐ必要がある。■人間が標的を選び、AIが侵入から身代金要求まで実行AIエージェントが最初に侵入したのは、1年以上前から修正プログラムが公開されていたのに、適用されていないサーバーだった。ログインに失敗すると、AIは自ら原因を調べ、31秒後には対処方法を実行した。被害組織のクラウドアカウントにアクセスするための鍵を盗み、再侵入を可能にする「裏口」も設置した。さらに、インターネットから接続できるデータベースの管理者権限を奪い、データベースを乗っ取った。AIエージェントは1342件の設定情報を暗号化し、情報が保存されていたデータベース自体も消去した。身代金を支払ってもデータを取り戻せない状態にした上で、ビットコインの送金先アドレスを記した身代金要求文を作成した。侵入先で一連の操作を行ったのは、人間ではなくソフトウェアだった。クラウド環境のセキュリティ対策を手掛けるシスディグ(Sysdig)は2026年7月、一連の攻撃を「JADEPUFFER」と名付け、調査結果を公表した。シスディグは、AIエージェントが被害組織のネットワークを調べ、状況に応じて自ら判断しながら侵入を進める様子を追跡した。ジェームズ・キャメロン監督の1984年の映画『ターミネーター』には、障害に直面しても適応し、追跡をやめない機械が登場する。金属の体を持ち、オーストリア訛りの英語を話す機械だ。現実のJADEPUFFERが潜んでいた場所は、データベースサーバーの内部だった。人間は攻撃の標的を決め、最初の認証情報を与えた。AIはそこから先の作業をすべて実行した。シスディグのマイケル・クラークは「ランサムウェア攻撃に必要な技術的なハードルは、エージェントを動かす費用を払えるかどうかという水準まで下がった」と語った。■韓国の銀行で顧客情報が流出、重要インフラにも広がるAI攻撃2026年9月30日から、韓国の銀行を狙ったAIを使う不正侵入が相次いで明らかになった。数日以内に新韓銀行、KB国民銀行、ハナ銀行を含む5行が顧客情報の流出を確認し、別の2行も侵入未遂を検知した。新韓銀行だけで約2万5000人の氏名、電話番号、所得、融資上限額が漏えいした。調査担当者は、中国語に対応したハッキングツール「ARTEX」の痕跡を発見した。ARTEXは市販のAIモデルと連携し、システムの弱点を探して侵入経路を自動的に割り出す。韓国のイ・ジェミョン大統領は「専門的な技術がなくても、AIを使えば容易にハッキングできるようになった」と述べた。わずか1年で、AIは犯罪者によるランサムウェアの作成を支援するだけでなく、攻撃そのものを実行するようになった。自律的な攻撃を阻止するには、AIエージェントを防御にも利用する必要があるかもしれない。●犯罪者の補助役から、侵入手順の大半を実行する存在へ2025年8月、犯罪者はプログラムを作成するAIエージェントを悪用し、医療機関や救急サービスなど少なくとも17組織に金銭を要求した。同年11月には、中国政府の支援を受ける集団が諜報活動の80〜90%をAIエージェントに実行させた。2026年8月には米国の5つの政府機関が、水道施設や送電網を動かす制御装置への攻撃に、AIが作成したプログラムが使われていると警告した。

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