二人乗り、信号無視、ヘッドホン着用、ナンバープレートなし……”違法モペット”が横行している理由

「ゴーーーーッ!」 不気味なロードノイズを響かせながら、猛スピードで何かが記者の真横をかすめる。バイクかと思いきや“自転車”だった。ペダルを一切漕ぐことなく、“自転車”は上り坂を加速していく――。 近年、頻繁に見かけるようになった「ペダル付き原動機付自転車」、通称「モペット」。そのマットなボディ、太いタイヤ、そして力強いフォルムは“ちょい悪”ファッションと絶妙にマッチしており、若年層に人気のアイテムとなった。 このモペットが現在、社会問題化している。 そもそも、「モペット」と「電動アシスト自転車」はどう違うのか。「電動アシスト自転車」はペダルを漕がないとモーターが駆動しない仕組みで、アシストが動く速度が24km/hまでに制限されており、道路交通法では「自転車」として扱われる。一方、モペットと呼ばれる「ペダル付き原動機付自転車」はペダルがついているものの、漕がずともモーターで自走が可能なため、「原付バイク」に分類される。見た目が似ていても、道路を走る際のルールは自転車とまったく異なるのだ。 ’24年11月1日に改正道路交通法が実行され、モペットについての運転のルールや違反の規定を原付きバイクなどと同じ扱いにすることが明文化された。さらに「モーターを使わずにペダルだけで走行しても、モペットは原動機付自転車や自動車として扱われる」と正式にアナウンスされた。 ということは、モペットを正しく運転するには運転免許が必要であり、時速30km/h以内での走行と二段右折を守らなくてはならない。ナンバープレートの装着や自賠責保険への加入、ミラーやウィンカーなどの保安部品の装着、ヘルメットの着用も義務化されている。 問題を深刻化させているのが、違法改造の横行だ。本来、モペットは免許区分ごとに最高速度が制限されているが、インターネットを通じてリミッター解除の改造パーツが簡単に手に入る。昨年10月には、リミッター解除パーツをフリマサイトで出品したとして、大阪府警が商標法違反容疑で会社員の男ら3人を逮捕し、60代男性2人を書類送検した。電動自転車の改造部品を巡る、全国初の摘発例となった。 原付がナンバープレートを付けず50km/hで公道を走っていたら大騒ぎになるというのに、ルールを無視して走行する“違法なモペット”は後を絶たないーー。一体、何がこの異常な状況を生み出したのだろうか。 ◆日没を境に危険運転が増加 日中はルールを守っているように見えるモペットも、日没を境に”豹変”するケースが多い。この記事の取材中にも、ヘッドホンをつけたまま平然と赤信号を無視するヤカラ系の男性、スケボーに乗ったまま友人のモペットにつかまって並走する若者、時速50km/hで走る本誌の車を抜き去るハイスピードモペットと遭遇。道交法違反もさることながら、歩行者や他の車両への危険行為も目立つ。都内のタクシードライバーはこう嘆いた。 「信号待ちしていたら『ドカン!』と物凄い音がして、ピザが車体にぶちまけられたことがあります。その直後、モペットが加速して逃げて行った。片手で持っていたテイクアウトのピザが、ぶつかった衝撃で吹き飛んだのでしょう。立派な当て逃げですが、車体が損傷していなかったので洗車だけして通報はしませんでした。 夜間で黒っぽい服装を着ていたから、ドライブレコーダーでの犯人の判別は不可能でした。最悪なのは、そのモペットにはナンバープレートがついていなかったこと。ナンバーからドライバーを割り出すことができず、逃げ切られてしまうのです。モペットが相手だと、ぶつけられても泣き寝入り。それが悔しいです」 港区の商店街の店主が憤る。 「モペットのドライバーには二つタイプがあります。一つはガラの悪い連中。『歩道走行』や『逆走』を注意すると逆ギレするからタチが悪い。もう一つは出前の配達に使っている外国人です。彼らのモペットは車輪が大きく、一度漕いだらものすごいスピードで加速するので、明らかに改造車でしょう。コロナ流行中から見かけるようになりました。商店街を猛スピードで走るし、一時停止もしないから恐くて仕方ない。注意しても『ニホンゴガワカラナイ』と言って逃げるから、タチが悪い」 原付のナンバープレートには、自賠責保険加入の際に発行されるステッカーを貼らなければならない。加入せずに運転すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられ、即刻免許停止処分となる。しかし、モペットはナンバーが未装着のものが多い。取り締まりは難しく、結果として違法モペットが横行する一因となった。 ルールの厳格化、徹底した違法モペットの取り締まりが急務だ。 文・写真:佐藤裕之

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