中国人俳優の王星がニセの撮影オファーにおびき寄せられてタイで拉致され、ミャンマー北部の中国人による特殊詐欺拠点に連れていかれて監禁され、3日後に救出された。この事件については、日本メディアでもすでに報じられているのでご存じの方も多いかもしれない。だが、背景については日本人があまり知らない問題が隠れているので、注意喚起したい。 (福島 香織:ジャーナリスト) ■ 売れない俳優がハマった罠 事件の概要をかいつまんで説明しよう。 王星は31歳、イケメン俳優として中国の映画やドラマにそれなりに露出しているが、いまひとつ売れていない。そんなおり2024年12月24日、王星は、友人の紹介でSNSの俳優専門のチャットグループに入った。そこでタイの制作会社関係者を名乗るアカウントから、オーディションに誘われた。 王星はガールフレンド嘉嘉の助けを借りてオーディション用ビデオを制作・提出し、合格通知をもらった。撮影スケジュールなどの説明がなく、不審に思うところもあったが、断ればその会社が関与するすべての作品に出演できなくなる、今後海外進出のチャンスを逃すことになる、などと説得され、タイに行くことを決心した。 1月3日午前3時ごろにバンコクに到着すると空港に映画関係者を名乗る人物が車で迎えに来ており、それに乗ってミャンマー国境近いタイ・メーソートの町へいく。 中国で留守番をしていたガールフレンド嘉嘉は、王星とメーソートに至るまでの間チャットで連絡を取り合いGPSで王星の位置情報も見ていた。ところが、メーソートに着いてからぷっつりと消息が途絶え不審に思う。 実のところ王星はその後、タイ人が運転するピックアップトラックに乗せられてミャンマーに拉致されていたのだった。 トラック運転手のタイ人はミャンマーのカレン族兵士にメーソートのスーパー前で待っている王星を迎えに行くよう頼まれたという。このトラックはミャンマー国境のパスポートコントロールを通過せず川沿いの裏道を通り入国。到着した場所はミャンマー北部、ミャワディ地区の中国人による特殊詐欺シンジケート拠点の1つ、「アポロパーク」だった。 この拠点は通称、「玉総」(玉社長)、「金老虎」(金燦)と呼ばれる中国人が仕切っていたという。すでに2人ともタイ当局に逮捕されていると伝えられている。