児童相談所(児相)が把握した虐待が疑われる事例を警察と全件共有する仕組みを導入した自治体は、児相を設置する自治体の4割となり、少しずつ広がりつつある。情報共有により虐待の深刻化を防ぐ取り組みだが、導入後にもさまざまな課題があるという。 過去には児童相談所(児相)や警察など関係機関の連携不足により、児童が死亡するなど重大な結果を招いた事件が起きている。 東京都目黒区で2018年3月に、両親から虐待を受けた船戸結愛(ゆあ)ちゃん(当時5歳)が死亡した事件では、転居前に住んでいた香川県の児相が結愛ちゃんを一時保護していた。だが、転居した後に児相間での情報共有が徹底されておらず、事件前に警視庁が虐待を把握できなかった。 台東区で23年3月に細谷美輝(よしき)ちゃん(当時4歳)を殺害したとして、両親が逮捕された事件でも、区子ども家庭支援センターや都児童相談センター(都児相)が把握した虐待の兆候が警視庁と共有されていなかった。 19年3月に美輝ちゃんら子ども3人を児相が一時保護していたほか、亡くなる半年ほど前にも、保育園から区に「顔にあざがある」など虐待を疑わせる情報提供があった。 区はこうした情報を、虐待事案の情報を共有する「要保護児童対策地域協議会(要対協)」で報告した。しかし会議は複数の案件を話し合う定期開催のもので、参加したのは区と都児相のみ。そのため、話し合いの内容は警視庁など他の機関には共有されなかった。 結局、要対協では、父親と美輝ちゃんへの聞き取りから「双方の説明に矛盾はない」などとして「虐待には当たらない」と判断。区が中心となった見守り支援の継続が決まった。 毎日新聞は判断に至った経緯を示した要対協の議事録について区に情報公開請求したが、「文書を作成していない」との理由で非開示だった。 児童虐待に詳しい才村純・東京通信大名誉教授(子ども家庭福祉論)は美輝ちゃんの事件について「亡くなるまでの経緯を振り返ると、警察など他機関と連携してリスクを再評価し、再び一時保護することを検討すべきだった」と指摘する。 都児童福祉審議会は区や都児相の対応を検証しており、近く報告書を公表する方針。東京地検は美輝ちゃんへの殺人容疑については処分保留としており、捜査が続いている。【岩崎歩、木原真希】