「真に自由の身」になるまで、なぜ58年もの年月を要したのか。検察や警察は深い反省と謝罪をし、誤りの要因を検証すべきだ。 1966年の静岡県一家4人殺害事件を巡り、死刑判決を受けた袴田巌さん(88)の再審無罪が確定した。静岡地裁判決に、検察が控訴を断念した。当然であり、遅きに失した。 冤罪(えんざい)を訴え続けた闘いにようやく終止符が打たれたが、著しい人権侵害で奪われた袴田さんの時間は取り戻せない。その事実を重く受け止めなくてはならない。 畝本直美検事総長は異例の談話を発表し、「結果として相当な長期間、法的地位が不安定な状況に置かれた。申し訳なく思う」と謝罪を記した。 一方で、大半は判決内容に対する不満を書き連ねており、「到底承服できない」とまで批判した。無反省ぶりにあぜんとする。 判決では、事件の約1年2カ月後に、みそタンクから血痕に赤みが残った状態で見つかった5点の衣類など、三つを捏造(ねつぞう)と断定した。検察は再審開始判決に続く認定を、控訴審で覆すのは困難として、撤退に至ったとみられる。 有罪立証がことごとく否定された上、捏造を指弾されたことに、「強い不満を抱かざるを得ない」という。自己弁護に走る検事総長の見識を疑う。 静岡県警の本部長は会見で、同様に謝罪の言葉を述べた。捜査では誤った見立てに固執し、非人道的な取り調べを続けたと認定されていた。 裁判所も、警察や検察の不十分な証拠を見逃した。 捜査や公判の検証は不可欠だ。冤罪事件はその後も起きている。最高検は今後、検証する方針としたが、具体的な時期や期間を明示していない。 刑事司法の信頼を回復するためにも、第三者を入れて問題点を洗い出すべきだ。 再審制度の見直しは急務である。国会では超党派の議員連盟が法改正に向け議論を進めている。 最初の再審請求から、再審開始が確定するまで42年もかかった。検察が不服申し立てを繰り返したことなどが要因だった。捜査側が独占する証拠開示のルール化を含め、公正で速やかな救済につながる環境整備が欠かせない。 逮捕当初から、袴田さんを犯人視する報道をした本紙を含むマスメディアの責任も免れない。捜査機関の情報に偏らず、推定無罪の原則の徹底を肝に銘じたい。