軍需企業との取引問題視も違法性問えず 公安部の「蹉跌と罪」、浮かんだ経済安保の「穴」

外為法違反罪での起訴が取り消された精密機械製造会社「大川原化工機」(横浜市)を巡り、警視庁公安部が当初、同社が中国の軍需企業と取引した点を問題視して捜査を進めていたことが、訴訟資料から明らかになった。所管官庁の経済産業省は、取引先への懸念だけでは制度上、違法性を問えないとしたが、公安部は別ルートで捜査を継続。結果的に起訴取り消しを招いた。関係者は、輸出管理制度の不備を指摘する。 ■内偵捜査の違法性は争われず 捜査が違法だったなどとして大川原化工機が国と東京都を訴えた訴訟の控訴審は昨年末、東京高裁で結審。今年5月に判決が言い渡される。 都提出の訴訟資料によると、公安部が大川原化工機に関心を寄せたのは平成29年3月。取引先からの通報が端緒だった。 その後の捜査で、大川原化工機が中国の軍需企業に、粉末を乾燥しながら吹き付ける「噴霧乾燥機」を輸出していたことが判明する。 この時点での公安部の内偵捜査については、訴訟でも違法性は争われていない。 ■齟齬生まれるも… ただ、取引先が軍需企業であるだけでは罪に問われない。日本の輸出管理制度は、「大量兵器開発に転用される可能性がある」などの懸念が払拭できない製品以外は、相手がどこであっても基本的に輸出を認めている。 実際、経産省の担当者は29年12月、公安部との打ち合わせの中で「需要者に懸念はある」とする一方、「用途によって許可・不許可を決定している」と発言し、問題の取引自体は「シロ」だとの見解を示している。 この時点で、「誰に売ったか」を問題視する公安部と「何を売ったか」で判断する経産省の間で齟齬が生まれていた。 だが、公安部はあくまで大量破壊兵器との結びつきにこだわった。選んだのは「噴霧乾燥機を空焚(だ)きすれば、熱で菌を殺して生物兵器製造に転用できる」という解釈で、中国の軍需企業とは別の、ドイツ企業などへの輸出を摘発するという道だった。 公安部は30年10月以降、大川原化工機の捜索に踏み切り、同社の3人を逮捕・起訴。その後、空焚きでも菌が死滅しないと判明し、解釈は破綻。検察は起訴を取り消した。民事訴訟でも、1審判決で捜査の違法性が認定された。

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