第97回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされた映画『聖なるイチジクの種』が2月14日(金)より全国公開される。 イランとアメリカといえば、仲が良くないイメージがあるかもしれないが、それは国や政府同士の問題であって、若者たちの宗教離れも進んでいる。イランはイスラム教徒が9割以上を占めているが、それは親世代から押し付けられて、生まれながらにしてイスラム教徒にされてしまっているから。そんな環境自体が、自己主張をしたいZ世代からしてみれば、単に迷惑でしかないのだ。 だからこそ、そもそもビジャブという文化そのものが必要ない、信仰も解釈も人それぞれだから、極端にしなくてもいいという意見が飛び交い、SNSを通じて集まった人々によるデモ活動が日常的に行われている。 しかし、その状況をイラン政府は良いものと思ってはいない。そもそもイスラム教が国を構築しているのだから、女性はビジャブを着用するものだという固定概念を変えないし、変えるわけにはいかないのだ。 そんななかで、女性の権利をめぐる抗議デモに参加していた16歳の少女ニカ・シャカラミと、22歳のマフサ・アミニの不審死によって、改めてイランだけではなく、理不尽な状況下で生きる女性たちの声に世界が耳を傾けはじめた。この事件は、日本でも大きく報道され、議論されたこともあり、知っている人も多いはず。 第37回東京国際映画祭で上映された、イランで暮らしながらプロのムエタイ選手を目指す少女を描いた『マイデゴル』。現代に生きる少女たちは、アメリカ文化が大好きで、外出の際はビジャブで隠しつつも、おしゃれは欠かさないし、顔の出ている部分には化粧をしたり、髪の毛をギリキリのラインで出してみるといった様子が映し出されていた。近年、こういったZ世代の視点から描かれた作品が増えてきている。 音楽でいえば、イランポップ(ペルシャポップ)は、非常に現代的。ロックやヒップホップもあって、他国とそれほど変わらない。 さて、映画『聖なるイチジクの種』は、昨今のイランを巡る問題を描いている。国家公務に従事する一家の主であり、愛国心が評価され予審判事に昇進したイマンと、その家族の物語を描いたタイムリーな作品だ。抗議デモや治安部隊による過剰な鎮圧などの実際の映像も多数使用されている。 予審判事といっても、仕事内容は、反政府デモの逮捕者に不当な刑罰を下すこと。当初は、未来ある若者に重すぎる刑罰を下すことに葛藤していたイマン。家庭では、妻とふたりの娘を愛している普通の父親であることから、自分の子どもたちとも重なる。しかし、時間が経つにつれ、歪んだ愛国心へと変化していってしまう。