12・3内乱事態において陰で糸を引いていたとされるノ・サンウォン元情報司令官の手帳に記されていた内容の中には、非常戒厳時に実際に実行されたものもある。昨年の総選挙前に作成されたとみられる手帳の計画の一部が現実のものとなっていたことなどを考慮すると、「野党関係者500人あまりの回収」などの内容をまったく現実性のない空想とはみなしがたい。非常戒厳時に実現した、あるいは試みられた内容が手帳にかなり記されているだけに、実際の作成者がノ元司令官なのかどうか、誰の指示で作成されたのか、軍の内部や大統領室などで共有されていたのか、などについて捜査が必要だ。 ハンギョレが14日に確保した70ページの「ノ・サンウォン手帳」では、国会の位置する「汝矣島(ヨイド=国会を意味する)の封鎖」が重視されているが、実際に昨年の非常戒厳の中心目標は国会であり、封鎖も試みられた。憲法では、非常戒厳の際にも国会の権能は制約できないことになっている。今回の非常戒厳が違憲で違法だと評価されているのもそのためだ。しかしノ元司令官の手帳には汝矣島封鎖についての具体的な計画が記されており、実際の非常戒厳でも国会に軍の兵力が投入された。尹大統領の起訴状には、武装軍人1605人、警察官約3790人を動員して国会、選管、共に民主党本部、リサーチ会社の「世論調査コッ」などの占拠・立ち入り規制、逮捕、拘禁、強制捜索などの方法を試みようとしたという内容が記載されている。 非常戒厳時の首都防衛司令部(首防司)の兵力の国会出動も、手帳に記されている内容だ。手帳には「警戒兵は首防司の人員活用(一部汝矣島制圧)」と記されているが、首防司は実際に非常戒厳で国会の統制を命じられている。 手帳の「回収チーム構成」のくだりに登場する、回収対象者名簿の作成▽実行部隊の指定▽私服勤務▽警察の活用案などは、実際に実行されたり、試みられたりしている。 回収対象者名簿は実際に作成され、キム・ヨンヒョン前国防部長官がヨ・インヒョン前防諜司令官に渡している。そしてホン・ジャンウォン前国家情報院第1次長、チョ・ジホ警察庁長など複数の人物に伝えられている。 実行部隊の指定も行われている。戒厳時に特に任務がなく動員されてはならない情報司令部は、中央選挙管理委員会の掌握という役割が与えられている。国会には陸軍特殊戦司令部と首都防衛司令部が投入されている。 また非常戒厳時には、国会や選管などに私服姿で諜報・情報収集などにあたる軍部隊「便宜隊」が出動してもいる。警察の活用も現実のものとなっている。尹大統領は非常戒厳当日の昨年12月3日、チョ・ジホ警察庁長とソウル警察庁のキム・ボンシク庁長(いずれも当時)を三清洞(サムチョンドン)の安全家屋(秘密活動に使う一般家屋)に呼び出し、戒厳に関する指示を下した。尹大統領が自ら渡した1枚のA4用紙には、10の掌握対象機関が記されていた。非常戒厳宣布後には、尹大統領はチョ長官に自ら6回も電話をかけ、国会議員の逮捕を指示した。また防諜司令部は非常戒厳時、警察に政治家などの主要人物の逮捕組の支援と合同捜査本部の設置に必要な100人の捜査官の支援を要請した。 手帳には、戒厳を指揮する合同参謀本部指揮所を京畿道果川(クァチョン)に置く、とも記されているが、この部分には「パク氏は指揮所を設置」という文言が登場する。これは、12・3非常戒厳で戒厳司令官を務めたパク・アンス陸軍参謀総長を意味すると推定される。文書の別の部分にも、「パク・アンス」の役割は「鶏龍台(ケリョンデ):収集場所、戦闘組織支援」と記されている。手帳には、キム前長官から主要人物の逮捕を命じられたヨ・インヒョン前防諜司令官の名も登場する。彼の役割は「実行人員指定、回収名簿作成」となっている。この回収名簿には少なくとも14人以上が記されていたことが確認されている。 また手帳には「市民の不便がないようにする」という内容が記されているが、これも尹大統領らの立場と類似しているようにみえる。尹大統領は今月11日、憲法裁判所の弾劾裁判で、「国民に軍人が抑圧や攻撃を加えた事実はまったくない」と強調している。実際に、キム・ヨンヒョン前長官が作成した布告令草案から夜間通行禁止が尹大統領によって削除された、というのがキム前長官と尹大統領の主張だ。 そのため、手帳が誰の指示で、どのような経緯で作成され、どの線まで報告されていたのかは、捜査が必要だ。最近、国家捜査本部は国立科学捜査研究院にノ元司令官の手帳を送り、筆跡鑑定を依頼したが、「鑑定不能」判定が下されている。ノ元司令官は、検察に対しても手帳についての供述を拒否している。そのため捜査は難航している。手帳の証拠能力が認められるためには、手帳の作成者が本当にノ元司令官なのか、手帳の内容がいつ、どのような理由で作成されたのか、などが確認されなければならないが、当事者たちが口を開いていないからだ。検察は、ノ・サンウォン手帳と戒厳との関連性などを解明するため、捜査を続けていく方針だ。 ペ・ジヒョン記者 (お問い合わせ [email protected] )