「金の延べ棒」なぜだまし取られる 「最強通貨」めぐる詐欺事件多発の理由とは

特殊詐欺で金地金(きんじがね)(金の延べ棒)をだまし取る事件が出始めている。昨年中に京都府内では数件発生し、被害総額は約3億円に上った。金価格の高騰に加え、国内外で価値を持つことが背景にあるとみられ、一部の犯行には海外の犯罪グループが関与していた疑いがある。 「金は、どの国の通貨とも交換できる最も強い『通貨』です」。京都市中京区の貴金属販売店「ゴールドスリーサイトウ」の齋藤博社長はこう解説する。 記者が取材に訪れた1月10日の金の店頭小売価格は、1グラム当たり前日比51円高の1万4993円。1年前と比べると4560円高い1・4倍になっていた。 同店によると、金価格は、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や不透明な中東情勢に加え、資産運用に対する関心の高まりもあり、これまでにない高騰を見せている。 府内では昨年、金地金を詐取される特殊詐欺事件が4件発生し、被害総額は2億9800万円相当に上った。京都市上京区の60代男性は、昨年7月に1億円相当の金地金を詐取された。携帯電話会社を名乗る人物から電話で「携帯電話が使えなくなる」と言われた後、警察や検察をかたる人物に「あなたに逮捕状が出ている。資産を全て提出しないと逮捕する」と告げられた。預貯金を下ろすなどして金地金を買い、指定場所に置いたところ、だまし取られたという。 1月には、南区の70代女性から3140万円相当の金地金をだまし取ろうとしたとして、台湾籍の男(25)が府警に逮捕された。 捜査関係者によると、二つの事件は、「逮捕状が出ている」と電話やLINE(ライン)で不安をあおり、金地金を購入すれば無実を証明できると持ちかける点で手口が共通していた。同種の被害は東京や愛知、大阪、香川などでも確認されている。 なぜ金地金が狙われるのか。京都府警は、海外の犯行グループが関与している可能性を挙げ、「(犯人側にとって)世界的に金が高騰している上、他国でも使える換金性に利点があるのでは」と推測する。さらに、現金に比べてかさばらず、多額の資金を比較的容易に移動できるため、犯罪に利用しやすいとみる。 水際での被害防止には課題も。京都市内の貴金属店では、詐欺への注意喚起を促すポスターを掲示し、顧客に購入目的を必ず聞き取っているが、担当者は「不審点がなければ販売せざるを得ない」とこぼす。また、被害者が犯人に誘導されて金融機関で多額の現金を引き出す場合、「金に投資する」と言われれば職員は出金を止めにくい。 こうした現状に、府警特殊詐欺対策室は「捜査機関が金地金を求めることは一切ない。不審な電話があれば、落ち着いて周囲の人や近くの警察署に相談して」と呼びかけている。

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