10年前、20年前、30年前に『FRIDAY』は何を報じていたのか。当時話題になったトピックをいまふたたび振り返る【プレイバック・フライデー】。今回は10年前の’15年3月27日号掲載の『淡路島・5人殺害事件 どこにでもいる「引きこもり魔」の恐怖』を紹介する。 温泉地としても有名な兵庫県・淡路島の洲本市。市の中心から車で20分ほどの観光客もほとんど訪れることのない小さい集落で5人の住民が殺害された事件だ(《》内の記述は過去記事より引用。年齢はすべて当時のもの)。 ◆静かな集落を襲った〝惨劇〟 《「住んでいるのは老人ばかり。同じ姓の住民が多くて昔はみんなで還暦や出産祝いをしたもの。近年は寄り合いもなくなり付き合いは減ったが、その分、トラブルもなかったのに……」(住民)》 ’15年3月9日の朝、9軒の民家が点在する静かな集落で事件は起きた。住人の1人であるX(当時40)が、自宅から50mほどの場所にあるAさん(82)宅へ侵入、Aさんとその妻(79)をサバイバルナイフでメッタ刺しにして殺害したのだ。Xはさらにその隣家のBさん(62)宅でもBさん、妻の(59)、母親(84)を同じように刺殺した。 Xの凶刃から逃れたBさんの長女の通報で駆け付けた警官は、路上で茫然としていたXを発見。「私がやりました」と話したため殺人未遂の現行犯で逮捕した。 Xは工業高校を中退後、40歳となった当時まで独身で定職にもついておらず、自宅の離れで引きこもり生活を続けていたという。Xはどんな人物だったのか。 ◆親族が感じていた犯人の〝異常性〟 《「両親は6~7年前から別居していて、Xは父親と祖母の3人で住んでいました。お母さんは自分の実家で年金暮らし。 お父さんはNTTの関連会社を定年退職した後、農業をしています。 Xの趣味はパソコンですね。私が『パソコンの調子が悪い』と相談すると、『それはこうしたらいい』とアドバイスをくれました。 あとはバイクです。オフロードのバイクに乗っていましたね。20代のころは、漁業をしていた祖父を手伝って底引き網漁で貝やエビを取っていたはずです。ただそれも長続きしなかった。最後に会ったのは11年前ですが、何の仕事をしているかはわかりませんでした」(Xの親族) 礼儀正しく、一見するとごく普通の男性だが、親族はあるときにXの異常性を感じたという。 「今から4年ほど前、フェイスブックにXから友達申請が来て、彼のページを見てみるとわけのわからないことが書かれていて、すぐに申請を却下しました。病院の精神科にかかっていることは知っていましたが……」》 当時、本誌が取材したXのSNSには妄想的な書き込みが並んでいた。何人もの実名を挙げて〈電磁波犯罪〉を行っていると中傷を繰り返していた。被害者のAさんの家族の写真や住所もさらしたうえで〈電磁波兵器で、他人の心を覗き見と洗脳〉していると書いていたのだ。 Xは’13年の秋まで明石市内にある病院の精神科に入退院を繰り返しており、同市内で生活保護を受けて一人暮らししていたが、事件の半年ほど前に実家に戻り、引きこもっていたという。 《ネット上に写真や実名をアップされたAさんやその家族は兵庫県警に計9回も相談していました。数年前にAさんの孫がXの乗っていたバイクの音がうるさいと文句を言ってトラブルになり、それ以来、Aさんの一家は恨まれていたようです。ですが、県警はパトカーでの巡回の頻度を増やしただけで、Xに接触はしていなかった」(県警担当記者)》 一方的な妄想で惨殺されてしまった5人。逮捕後、Xの自宅からは複数の刃物が押収された。警察は事件を未然に防げなかったのだろうか──。 ◆明らかに眼の焦点が合っていなかった Xは精神刺激薬「リタリン」を長期間にわたって大量に服用していたことから、’06年ごろから妄想にとらわれるようになったという。奇声を上げたりバイクの騒音をまきちらすなどの奇行が目立つようになり、’09年に前述のAさんの孫とのトラブルを起こした。それ以来Aさん宅に嫌がらせの電話をしたり、ネットで誹謗中傷を繰り返すようになった。’10年12月にXは名誉毀損容疑で逮捕されるが、不起訴となり、その後Xは明石市内の病院に措置入院させられて同市で暮らしていた。 Xがいなくなったことで続いていたAさん家族の束の間の平和は、事件の約1ヵ月前の2月14日、「きぇ~」という奇声で破られた。実家に舞い戻ったXが近所を撮影しながら奇声を上げていたのだ。Aさんの孫が目撃したところによると、Xは明らかに眼の焦点が合っていなかったという。 不安に思ったAさんらは警察にたびたび相談したが、パトロールは強化してくれたものの、逆に「Xに刺激を与えていないでしょうね」と聞かれたり、「睨まれたぐらいで通報しないで」と言われたこともあったという。Xはこの間もSNSで被害者たちを誹謗中傷したり、顔写真をさらすなどの行為を繰り返しており、その数は事件当日までの1週間で50回以上にのぼった。 ’17年2月から始まった公判でも独特な理論を展開していたXは、事件当時の責任能力を認められて3月に下された判決では死刑となった。しかし控訴審では再度精神鑑定を行った結果、妄想性障害が認められるとして無期懲役に。’21年1月に刑が確定している。 「本日の判決には、到底納得がいきません」。控訴審で無期懲役の判決が言い渡された際に、Aさんの遺族は失望のコメントを出し、ネットでも判決への批判の声があがっていた。 事件前に何度も警察に相談したにもかかわらず、むざむざ家族を失った遺族たちの悔しさはいかばかりだろうか──。