5年間勤めた職場からの転勤を控えたAさんは、同僚たちが開いてくれた送別会を楽しく過ごしました。お酒が進み気分が高揚したAさんは、普段の2倍以上のアルコールを摂取してしまいます。 送別会が終わり、Aさんは千鳥足で帰路につきました。いつもなら10分ほどで到着する自宅までの道のりが、この日は30分以上かかってしまいます。やっとの思いで自宅があるはずの場所にたどり着いたAさんは、安堵の表情を浮かべながら門扉に手をかけました。 ただいつも以上に酔っていたAさんの意識は朦朧としており、周囲の状況を正確に把握できていません。Aさんは自宅とよく似た造りの隣家の門扉に手をかけてしまったのです。玄関に向かって歩き出したAさんは、突如として明かりがつき、見知らぬ人物が現れたことに驚愕します。 酔いと混乱で正常な判断ができなくなっていたAさんは、「なぜ私の家に他人がいるんだ!」と大声で叫びました。この予期せぬ出来事に、家の住人も恐怖を感じ、すぐさま警察に通報しました。 数分後パトカーのサイレンが鳴り響き、警察官が現場に到着しました。状況を把握できないまま興奮冷めやらぬAさんは、警察官に取り押さえられてしまいます。酔いが覚めた頃、Aさんは警察署で事情聴取を受けることになりました。酔っぱらっていたとはいえ、誤って隣家に入ってしまったAさんはどのような罪に問われるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。 ー酔っぱらって別の家に誤って入った場合、どのような罪に問われますか? 住居侵入罪に問われるでしょう。住居侵入罪は刑法第130条に規定されており、正当な理由なく他人の住居に侵入した場合に成立します。3年以下の懲役、または10万円以下の罰金が科せられる可能性があります。 ただしAさんの場合は、アルコールの摂取で判断能力が低下し自分の部屋だと勘違いして侵入してしまったこともあり、窃盗や性犯罪目的の侵入ではないと判断される可能性が高いです。警察に取り押さえられたとしても、反省の態度や協力的な姿勢を示せば、勾留されずに釈放されると思われます。 ー実際の事例はありますか? 2015年に大阪府高槻市の職員が酔っぱらって自宅マンションの他人の部屋に侵入したとして逮捕された事例があります。逮捕された男性は、家を間違えた理由すら覚えていない程の酩酊状態でしたが、その後容疑を認めた男性は即日釈放されています。 この事例は不法な目的が無かったと証明されたため、釈放されたのだと考えられます。万が一、住居侵入だけでなく窃盗などの不当な目的が疑われれば、容疑が晴れるまでは身柄拘束が続くでしょう。 いずれにせよ酔っぱらっていれば罪にはならないと間違った解釈はせず、正しい判断ができる範囲で飲酒を楽しむようにしてください。 ◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。 (まいどなニュース特約・長澤 芳子)