介入の中国、増す影響力 詐欺拠点摘発、大量の携帯押収 ミャンマー少数民族支配地域

ミャンマー東部ミャワディ近郊の「シュエコッコ」。 日本など各国を標的に特殊詐欺を仕掛ける犯罪組織が拠点を置くこの地域に12日、時事通信のタイ人スタッフが入った。一帯を支配する少数民族武装勢力「国境警備隊(BGF)」幹部は、詐欺拠点で押収した大量の携帯電話を「中国側に引き渡す」と説明。中国政府が拠点摘発で介入し、影響力を増している実態が明らかになった。 ◇犯罪組織「ほぼ壊滅」 BGFが支配する「シュエコッコ」と「KKパーク」と呼ばれる地域には、中国系犯罪組織の拠点があったとされる。中国人俳優が誘拐され詐欺加担を強いられた事件が1月に発覚して以降、中国政府は本腰を入れ介入。ミャワディに入った中国公安省の劉忠義次官補が圧力をかけ、BGFは2月に拠点摘発に乗り出した。 時事通信スタッフはタイ人やミャンマー人の記者らと、車でシュエコッコを回った。武装したBGFの成人メンバーが同行したが、途中の詰め所には10代前半とおぼしき少年や少女の戦闘員も数人いた。 最初に到着したのは2階建てのBGFの事務所。周辺に大きな建物はない。会見した幹部のナインマウゾー氏は「シュエコッコとKKパークでは、犯罪組織をほぼ壊滅させた。首謀者ではないが、重要な役割を担った6人を逮捕した」と説明。手元の資料には「3月11日時点で4885人の中国人と、それ以外の国籍の2638人を発見。うち2763人は移送された」と記されていた。 ◇ビル立ち並ぶ都市 特殊詐欺拠点があった地域へ移動すると、雰囲気が一変した。ビルが立ち並び、整備された都市の様相を呈する。店などの看板の大半は、中国語とミャンマー語が併記されていた。建築作業員とみられるヘルメット姿の人もいた。 取材が許可された拠点跡は2カ所。一つのビルには特殊詐欺に従事していたとされる中国人らが一部屋に10人近くいた。取材に「家に帰りたい」「だまされて来た」と訴える。虐待され背中に傷がある人もいた。タイからの電力供給が停止された影響か空調が作動しておらず、暑さで上半身裸の人も多い。 別のビルの一室には、詐欺に使われたパソコンや携帯電話が段ボール箱などに集められていた。ナインマウゾー氏は「何千台もの携帯電話を押収した。燃やそうとしたが、中国当局に止められた。ミャンマー軍事政権を通じて引き渡す」と明かす。詐欺被害は米国や日本などでも起きているが、捜査に関し中国以外への言及はなかった。 ◇「外国」の投資期待 2019年開業の養鶏場や、約1年前に完成したウオーターパークにも案内された。ナインマウゾー氏は「シュエコッコは犯罪集団のためのものではない。外国からの投資で工場やホテル、カジノを建て、学校や病院も新設する都市計画がわれわれにはある」と説明。犯罪拠点だったビルは「住宅地になる」という。 シンクタンク「米平和研究所」は2月に公表した報告書で、中国政府が24年以降、ラオスの経済特区を拠点とする犯罪組織に対する摘発を強化し、特区での存在感を高めたと分析。「ミャワディでも中国の治安当局の影響力が増し、犯罪組織が構築したインフラや土地を中国国営企業が管理する可能性がある」と指摘した。

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