大阪地検特捜部が手掛けた業務上横領事件は、検察による取り調べの問題を改めて浮き彫りにした。各地で同様の問題が後を絶たないことから、最高検が「適正確保」を促す事態となっている。 取り調べの適正化を巡る取り組みは2006年、検察での録音・録画(可視化)が試行的に始まった。09年から始まる市民参加の裁判員制度を念頭に置き、容疑者が自らの意思で説明しているかを判断するためだった。 可視化に拍車をかけたのが、4年後に発覚した大阪地検特捜部による証拠改ざん事件だった。自白や証言に依存する捜査、事前に描いたストーリーに合わなければ証拠をねじ曲げる――。検察は厳しい批判にさらされた。 事件を受け、16年に取り調べの全過程を録音・録画することが決まった。対象は検察独自事件のほか、殺人などの裁判員裁判で審理される事件。威圧的な取り調べや供述の誘導を防ぎ、供述の任意性や信用性を担保する効果が期待された。 ただ、問題は続出している。横浜地検の検事が取り調べで「ガキ」「お子ちゃま」などと発言したことを受け、民事裁判の1、2審はこの取り調べが違法だったと認定した。 任意の取り調べはまだ可視化の対象外だが、19年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件では、検事が任意段階の捜査で容疑者らの供述を誘導していた疑いが浮上。最高検はこの取り調べが「不適正」だったと認定した。 ある検察幹部は「検事にのしかかるプレッシャーが不適切な取り調べにつながるのだろう。捜査のやり方から変えていかないとならない」と話す。 「不適切な取り調べが散見される」。最高検は24年12月、取り調べの適正化を全国に通知した。 背景にある事情として「検事のいきすぎた責任感や評価されたいという功名心がある」と分析。自白獲得に固執せずに中傷や暴言を禁じたうえで、容疑者らの人格を尊重することの組織内での共有を求めた。 検察が逮捕から起訴まで独自に手掛ける事件の捜査では「客観的視点が希薄になりがちだ」とし、録音・録画映像を適宜確認するなどチェック体制の強化にも言及している。 最高検は任意の取り調べについても、起訴が見込まれるケースで可視化を試行するとしている。別の検察幹部は「事件の真相解明に向け、取り調べで事実を引き出すことは重要だ。勉強会や研修を通じ、適正な取り調べが浸透していくかが鍵になる」と話す。【木島諒子、高良駿輔】