セガは3月19日、同社のゲームアプリにおいてゲーム内通貨を詐取したとして、電子計算機使用詐欺の容疑で複数名が逮捕され、有罪判決が宣告されたことを公表した。 使用されるハードやジャンル、マネタイズモデルなどの多様化によって、大小はあれど、さまざまな不正が横行している現代のゲームカルチャー。ソフトの開発/発売/運営にあたっている大手ゲーム企業からこの手のアナウンスが行われるのは、極めて珍しいことである。はたしてセガの発表は、ゲーム業界で広がる不正にどのような意味を持つのだろうか。 ■犯行グループだけでなく、アカウントを譲渡・貸与したプレイヤーも有罪に 本稿で扱うセガの発表は、「不正課金に関する、皆様へのお知らせとお願い」としてコーポレートサイトに掲示されたもの。アナウンスによると、有罪判決が宣告された人物は、同社のゲームアプリにおいてゲーム内通貨をだましとった犯行グループと、組織に作業を依頼したユーザーであるという。 前者はインターネット上の「リアルマネートレード(※)」サイトを通じ、「課金代行」サービスとして顧客を募るとともに、依頼者のアカウント情報を譲り受け、セガのサーバーに虚偽の情報を送信。不正取得したゲーム内通貨をサイト上で、本来の価格より安価に販売していた。 セガが提供するゲームアプリでは、こうした事態を未然に防ぐべく、不正課金行為そのものや、第三者にアカウントを譲渡・貸与するといった不正課金に繋がりうる行為を利用規約で禁止しており、そのような動きが確認された場合には、アカウントの停止対応を行ってきたとのこと。今回、業者だけでなく、ユーザーまでもが逮捕/起訴、有罪判決に至ったのはおそらく、依頼者によるそうした行為が、詐欺を可能にさせる直接の理由となったからだろう。 セガは一連の経緯を踏まえ、「課金代行を依頼しゲーム内通貨を入手した側も罪に問われることがある」とユーザーに注意喚起している。また、「犯罪になる可能性がある商品・サービス」や「利用規約上禁止している行為」には特に注意が必要として、その具体例をアナウンスのなかであらためて提示した。 【犯罪の可能性のある商品・サービス】 ・「課金代行」(等と謳っているサービス) ・「課金チャージ代行」 ・ゲーム内通貨の「導入代行」 ・そのほか、有償通貨・有償アイテムの取得を代行するサービス 【利用規約上禁止している行為】 ・法令に違反する行為。違反な行為を勧誘または助長する行為 ・チート行為・不正行為・リバースエンジニアリングを含むハッキング行為 ・第三者へのアカウントの譲渡や貸与 これまで表沙汰となることが少なかった課金型のゲームにおける不正の手口。セガが当事者として直近の実例を紹介したことで、プレイヤーに“暗黙の了解”と誤認されている部分があったグレーゾーンに明確な線引きが示された形だ。 ※ゲーム内のアイテムなどを現実の通貨で取引する行為のこと。多くの場合、SNSやメッセンジャー、掲示板、専用のサイトなどを介して行われる。以下、頭文字をとった省略形として「RMT」と表記する。 ■問われるプレイヤーの規範意識。今後はアカウントの売買にもメスが入るか ゲームカルチャーにおいては、オンラインゲームの草創期から、それと不可分な仕組みとして浸透してきたRMT。かつては違法性の低いものが主流だったが、最近では今回の件のように犯罪性が高く、明確に“黒”に分類される事案が目立ってきている。 そもそも同行為はその登場時点から、禁止である旨が当該タイトルの利用規約などに明記されてきた。しかしながら、対応にかかるコストの問題などもあり、運営に大きな支障をきたすことがなければ、摘発を見過ごされてきた実態もある。プレイヤーに“グレーゾーン”と認識されているのは、こうした慣習によるところが大きい。もちろん過去には話題性のある事件へと発展した例もあったが、そうしたケースは稀である。今回のセガの発表が異例のことのように感じられる理由にも、ゲームカルチャーとRMTをめぐる歴史からの影響がある。 近年ではゲーム外でのRMTを誘発しないために、システムにマーケットボードのような機能を盛り込むタイトルも珍しくなくなった。反面、ここ数年で台頭しつつあるNFTゲームなどは、同行為そのものをビデオゲームとは切り離し、合法的(ここでの「法」は、社会的な法律ではなく、界隈のルールを指す)なものとして独立させた例であるとも言えるだろう。犯罪性や規約違反さえなければ、「ゲーム資産を換金する」という行為の登場自体は、文化的に意義のある出来事であったともとらえられるのではないか。 一方、モバイルゲームの勃興以降では、“グレーゾーン”という誤った認識に基づいた、プレイヤーの倫理観の欠如も顕在化しつつある。その一端と考えられるのが、SNSなど外部サイトを活用したゲームアカウントの売買だ。一部のユーザーは当該タイトルから手を引くタイミングで、かけた時間や労力、金銭などを基準に自身のデータに値付けをおこない、欲する別のユーザーへの譲渡を行っている。 当然ながら、アカウントの売買は違反であると利用規約に明文化されている。しかし、摘発されにくい事案であるのをいいことに、プレイヤーのなかで横行してしまっている現状がある。ユーザーごとに個別であるはずの進行度や課金が、意図しない形で共有されることになれば、運営にとっては決して小さくない不利益となる。しかしながら、こうした行為を明確な“黒”と認識しているプレイヤーは少ないというのが実情だ。 今回のセガの発表には、ユーザー側の倫理観の欠如を牽制する意味合いもあるのかもしれない。運営側が被害者となる場合を除いても、RMTの場は犯罪やトラブルの温床となりやすい。自らの預かり知らぬところでネガティブな出来事が多発するようなことがあれば、巡りめぐって、タイトルそのものの評判が落ちることもあるだろう。アカウントの譲渡・貸与など、RMTを誘発する行為が利用規約で禁止されているのは、売上が減ること以外にもさまざまな目的があると考えられる。だからこそ、今後は今回の対応を皮切りに、アカウントの売買といった気軽に行われている規約違反にもメスが入っていく可能性がある。 「禁止行為であると知りながら、摘発の前例が生まれなければ、手を染めることをやめられない」。そのような倫理観が蔓延れば、ゲームカルチャーの権威は地に落ちることになる。今回の件をきっかけに、少しでもプレイヤーのモラルが向上することを願いたい。