「再審法、国会主導で改正を」 法制審での”骨抜き”に懸念 映画監督の周防正行さんに聞く

冤罪(えんざい)からの救済に向け、刑事裁判をやり直すルールを定めた再審法(刑事訴訟法の再審規定)の改正を巡り、超党派の国会議員連盟と法務検察の綱引きが激しさを増している。なぜ改正が必要か。何を変えるべきなのか。識者や国会議員、法曹関係者に聞く。 -集会などで再審法改正を熱心に訴えているが。 「刑事司法に関心を持って20年以上になります。被告人が否認していたある痴漢事件を機に現実の刑事裁判を取材し、学び、考えました。犯行を否認すれば勾留が延々と続く『人質司法』、その長い勾留の末に作られた自白調書が有罪の決め手になる『調書裁判』…。日本の刑事司法は法と証拠に基づき公正公平に行われている-。取材開始の前、そう信じていましたが、現実は違った。社会に伝えようと考え、映画『それでもボクはやってない』を作りました」 「もし無実の罪で逮捕されてうその自白を強要され、裁判でも無実の訴えを信じてもらえなかったら、刑務所に何十年も入れられ、死刑にされるかもしれない。それが自分だったら、家族だったらどうか。想像してほしいと思います」 -袴田巌さんの再審無罪をはじめ冤罪が相次いで明らかになっている。 「人間がやることだから冤罪をゼロにするのは難しいでしょう。でも捜査側による無罪方向の証拠隠しや、裁判所の再審開始決定に対する検察の不服申し立てなど、誤判からの救済を遠ざけている現行制度を改善することは可能なはず。それが再審法の改正です」 -その法改正を検討するよう法相が3月28日に法制審議会に諮問した。 「法務検察に任せたら、改革が骨抜きにされかねない。自分の経験からそれを強く懸念します。僕は2011年、16年の刑訴法改正を議論した法制審特別部会委員に選ばれました。当時は民主党政権。あの映画を作ったことで選ばれたのだと思います。厚生労働省官僚の村木厚子さんの冤罪事件を受け、取り調べの録音・録画が最大テーマでした。強引な取り調べで虚偽の自白を迫ったり、証拠品を改ざんしたりした検察は、大不祥事の当事者だった」 -法制審とは、どんな組織なのか。 「法制審は委員選びも、審議の方向性も法務省が主導します。僕や村木さんが委員を務めた特別部会も、多数派メンバーは法務検察や警察、裁判所の代表たち。改革に後ろ向きな人たちが多数を占める会議体で、再発防止策を審議するのは中立でも公正でもない。企業不祥事の問題に例えれば、第三者委員会ではなく、社内幹部がお手盛りで議論したようなものです。捜査側への痛手を最小限にとどめる方向で審議が進んだ印象が強く、結論として取り調べの可視化はごく一部の事件にとどまりました。法制審に任せれば、再審法改正も二の舞いになりかねない」 「一方で、超党派の国会議員連盟が議員立法による再審法改正に動いています。事件捜査や裁判を巡っておかしなことが起きているとき、当事者である検察、警察や裁判所主導で本当の改革ができるでしょうか。三権分立の観点からも、立法機関である国会が、第三者委員会的な立場でこれを実現できれば意義は大きい。人質司法など再審法に続く刑事司法改革に向け大きなターニングポイントにもなるはずです」 (聞き手は中島邦之) すお・まさゆき 映画監督。主な作品に「シコふんじゃった。」「Shall we ダンス?」。法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」委員を務め、その体験を著書「それでもボクは会議で闘う」にまとめた。鹿児島県の大崎事件の再審請求では、クラウドファンディングによる資金集めや、映像証拠の撮影で弁護団を支援する。

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