バーバラ・タシュ(ロンドン)、アナ・ホリガン(ハーグ)、BBCニュース ハンガリーは3日、国際刑事裁判所(ICC)から離脱すると表明した。同国にはこの日、パレスチナ・ガザ地区での戦争犯罪の疑いでICCの逮捕状が出ているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が国賓として到着したばかり。 ハンガリー政府高官は、ネタニヤフ氏が到着した数時間後に、ICCから離脱する方針を認めた。 昨年11月、ICCはパレスチナ・ガザ地区での戦闘をめぐり、ネタニヤフ氏やイスラエルのヨアヴ・ガラント前国防相、イスラム組織ハマスの軍事部門カッサム旅団のモハメド・デイフ司令官に対して、戦争犯罪や人道に対する犯罪の疑いで逮捕状を出した。 ICCは、ガザ地区で続く戦争において戦争犯罪や人道に対する罪が行われたとされており、ネタニヤフ首相とガラント前国防相とデイフ司令官の3人がそれについて「刑事責任」を負うものと考える「合理的根拠」があると説明した。 ネタニヤフ首相はICCの決定を「反ユダヤ的」と非難した。 ハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相は、逮捕状の発行後間もなく、ネタニヤフ氏をハンガリーに招待し、ICCの決定は自国で「何の影響も及ぼさない」と述べていた。 ICCには、設置条約「ローマ規程」の締約国の領内で起きたジェノサイド(集団虐殺)、人道に対する罪、戦争犯罪について、起訴・審理する権限がある。 ICCには現在、125カ国が加盟している。ハンガリーは、2002年の設立当初から加盟していた。欧州連合(EU)加盟国がICCを離脱するのは初めて。ハンガリーが離脱しても、現在進行中の手続きに影響はない。 ■「政治裁判所」だとハンガリー首相 オルバン氏はネタニヤフ氏との共同記者会見で、ICCが「政治裁判所」と化していると主張。イスラエルの指導者に逮捕状を発行したICCの決定が、そのことを「明確に示している」とした。 ネタニヤフ氏は、ICCを離脱するというオルバン氏の「大胆かつ信念のある」決定を称賛した。 「すべての民主主義国家にとって重要なことだ。この腐敗した組織に立ち向かうことが重要だ」と、ネタニヤフ氏は述べた。 イスラエル首相官邸の3日の声明によると、ネタニヤフ氏とオルバン氏は、ICC離脱の決定と、「この問題に関して取り得る次のステップ」について、ドナルド・トランプ米大統領と話をしたという。 イスラエルのギデオン・サール外相は先に、オルバン氏の「イスラエルに寄り添った、明確かつ強力な道徳的姿勢」に対する感謝をソーシャルメディアに投稿していた。 「いわゆる国際刑事裁判所と呼ばれる組織は、イスラエルの自衛権を損なうことに熱心なあまり、国際法の基本的原則を踏みにじり、その結果として自分たちの道徳的権威を失った」と、サール氏は付け加えた。 イスラエルと緊密な関係を築いてきたオルバン氏はかねて、国家主権を侵害するものと認識されている国際機関に批判的な姿勢を示している。今回の決定は、そうしたオルバン政権の、より広範な外交政策の姿勢に沿ったものといえる。 ハンガリーのICC離脱は、象徴的な重要性と政治的な意味合いを持つかもしれないが、ICCの運営能力や法的枠組みを大きく変えるものではない。 ICCは過去にも、同様の問題に直面しているが、国際的な幅広い支持を得て機能し続けている。 しかし、ハンガリーがICCを「政治的に偏っている」と批判し、ネタニヤフ氏の訪問に合わせてICC離脱を決定したことは、ほかの国々にとって、政治的同盟関係や特定の判決に同意できないことを理由に、国際司法へのコミットメントを疑問視したり放棄したりする前例となるかもしれない。 ICCに加盟していないアメリカ、ロシア、中国、北朝鮮は、ICCの管轄権を認めていない。 イスラエルもICCに加盟しておらず、ガザ地区におけるICCの司法管轄を拒絶している。しかしICCは2021年、国連事務総長がパレスチナを加盟国として認めたことから、ヨルダン川西岸、東エルサレム、ガザの各地にICCの司法管轄が及ぶと判断した。 ICCの設置条約「ローマ規程」の第127条によると、ハンガリーは今後、国連事務総長に文書で離脱を通告する必要がある。離脱は通告の1年後に発効する。 ICCのファディ・エルアブドゥラ報道官は、「ネタニヤフ氏の訪問に関して、ICCは逮捕状の発行後、標準的な手続きを踏んでいる。ハンガリーがICCに協力する義務を負っていることを、ICCは再確認している」とBBCに述べた。 逮捕状が発行されていることから、ハンガリー当局はネタニヤフ氏を拘束し、オランダ・ハーグにあるICCに身柄を引き渡すべきだが、ICC加盟国が必ずICCの逮捕状を執行するとは限らない。 欧州では、ネタニヤフ氏が入国すれば身柄を拘束すると表明している加盟国がある一方、ドイツなどは拘束するつもりはないと発表している。 しかし、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相は3日、ハンガリーのICC離脱表明を受け、「国際刑事法にとって最悪の日」だと述べた。 「欧州には、すべてのEU加盟国に適用される明確な規則がある。欧州では誰一人として法の上に立つ者はおらず、それはあらゆる法分野に適用されると、私は何度も、繰り返し明言してきた」 一方でアメリカは、ネタニヤフ氏の逮捕状を発行したICCの決定を非難している。昨年11月の発行後、ネタニヤフ氏はアメリカを訪れている。 そして今回、ネタニヤフ氏は逮捕状が出されてから初めて欧州を訪問した。 ハンガリーのクリストフ・サライ・ボブロヴニツキー国防相は2日夜、ブダペストの空港の駐機場で、ネタニヤフ氏を出迎えた。 イスラエルは、ネタニヤフ首相とガラント前国防相に対する逮捕状に異議を申し立てている。また、ICCの権限や逮捕状の正当性も否定している。 ネタニヤフ氏は逮捕状が出された当時、「人類の歴史における暗黒の日」で、ICCは「人類の敵」になったと述べていた。 「これは反ユダヤ的な措置だ。その目的はただ一つ、我々を滅ぼそうとする敵から自分たちを守るという当然の権利を、私たちが持てないようにすることだ」 ネタニヤフ氏と同時に逮捕状が出された、ハマスのデイフ司令官についてイスラエルは、昨年7月のガザ空爆で殺害したとしている。 イスラエルもハマスも、戦争犯罪や人道に対する罪の疑いを否定している。 イスラエルは2日、ガザへの攻撃を拡大し、ハマスに圧力をかけるために新たな軍事区域「モラグ回廊」を設置すると発表した。 ハマスは2023年10月7日にイスラエル南部を攻撃し、約1200人を殺害、251人をガザに連れ去った。イスラエルはこれに大規模な軍事攻勢で反撃。ハマスが運営するガザの保健省によると、これまでに5万人以上のパレスチナ人が殺されている。 (英語記事 Hungary withdraws from International Criminal Court during Netanyahu visit)