米ハーバード大学医学部に在籍する32歳のロシア人科学者が、米移民当局に身柄を拘束され、強制送還されるリスクに直面している。2022年にロシアのウクライナ侵攻に抗議し、ロシア政府を率直に批判して逮捕された過去があることから、ロシア送還には深刻な危険が伴うとして学術界や人権関係者の間で強い懸念が広がっている。 クセニヤ・ペトロワは海外旅行後に米国に再入国する際、研究用のカエルの胚を税関に申告せずに持ち込もうとしたとして、ビザを取り消された。この一件は、現在の米国における厄介な傾向を浮き彫りにしている。それは、反体制的とみなせる人物の口を封じて権威主義的な政権の機嫌をとるため、米移民法が「武器化」されているという問題だ。 ■「よくあるミス」が命の危機に 税関における生物学的サンプルの申告漏れは、国際的な共同研究においては珍しくないミスであり、通常は警告や罰金で済む。しかしペトロワは、ルイジアナ州ジーナにある移民・税関捜査局(ICE)の勾留施設に収容され、ロシアに強制送還される恐れが差し迫っている。 ペトロワの代理人を務める弁護士のグレゴリー・ロマノフスキーは今回の申告漏れについて、悪意に基づくものではなく経験不足に起因するミスだと強調する。だが、米当局の対応は、ミスの程度と不釣り合いなまでに厳しかった。 ペトロワは極めて高いリスクにさらされている。2022年、ロシアがウクライナに侵攻した際に抗議運動に参加し、ウラジーミル・プーチン大統領を公然と批判したことで逮捕され、反体制派として当局にマークされた。クレムリン(ロシア大統領府)が手段を択ばず、相手を暗殺してでも反対意見を封殺してきた歴史を考えれば、ロシア送還はペトロワにとって投獄か、それよりひどい迫害を意味する可能性が高い。