警察と被害者の「だまされた振り作戦」が成功。電話で「お金」詐欺事件のいわゆる“受け子”が現行犯逮捕されました。 熊本県美里町の路上で撮影された映像。軽乗用車から降りてきた男。帽子を被った高齢男性とやり取りをしています。 その瞬間、車の陰に隠れている警察官が動きました。 「逃げるな!逃げるな!」「受け子やな、受け子やな」 車に乗った男を、複数の捜査員が一気に取り合さえました。 詐欺未遂の疑いで現行犯逮捕されたのは、福岡市の自称・解体作業員の男(20)です。 警察によると、氏名不詳者と共謀し、美里町在住の男性(82)に息子を装って電話をかけ「株の配当が入ったが、税金の申告をしておらず、口座を国税に差し押さえられた。200万円を支払えば逮捕されずに済む」などとうそを言い、現金200万円をだまし取ろうとした疑いです。 8日に電話を受けた男性は「怪しい電話があった」と警察に相談。警察と協力して「だまされた振り作戦」を実行し、警察は、現金を取りに来た男を現行犯逮捕しました。 容疑者は「貸した金の回収に来ただけ」と容疑を否認しています。 警察は組織犯罪の可能性について調べています。 ■「どうしても息子を助けたかった」親心をつく手口とは 現行犯逮捕の現場で動画を撮影した男性は 「高齢者を狙った卑劣な犯罪は許せない」と憤ります。 前日に怪しい電話を受けたのは、男性の父親です。 「父は声が違うと、でも、犯人は風邪をひいているような喘息のような声で、ぜーぜー言いながら、息子役を演じたという感じです」 その後、弁護士や警察官を名乗る人物から次々と電話がかかり、精神的に追い詰められたといいます。 「どうしても息子を助けたかったと、自分は今後、短い人生だから、やけくそになって息子さえ助かればなんとかなるという思いで」 父親は一旦、信じ込んだものの、これまでの経緯を家族に相談し、警察に連絡。その後、警察に協力し「だまされた振り作戦」を実行することになりました。 「犯人は警察官が来たので、慌ててアクセル踏んで逃走しようとしたんですけど、その時、父が犯人をつかんで逃がさまいと。つかんで数メートル引きずられたという形で、けがをした」 逮捕の瞬間に立ち会った父親は、ひざをすりむくけがをしました。 「犯人の様子は、いたって動揺もしていない感じで、そんなに驚いていない感じだったので私自身は驚きました。 どうしても息子を助けたいという一心だったと思うんです。そこの心の隙間を狙った犯罪が私は許せない。 こういう被害にあう人を少しでも減らしたい」 ■宇土高校の卒業生の実家に同様の電話… 「宇土高校の同窓会のハガキが送られてきていないか」 今回の詐欺未遂の電話では、実際に息子が卒業した高校名を出して信じ込ませようとしていました。 宇土高校の卒業生がいる家庭に、同様の電話がかかっています。 「俺、俺と名前を言いましただけどうちにいない子の名前だったから3回『あんた誰?』って聞きましたそしたらプツンと切れました。読み間違えですね、今思えば」 そう語るのは、熊本県宇城市在住の70代女性。8日午後3時頃、固定電話に、息子の声とはまったく違う声で、息子ではない名前を名乗ったと言います。 「詐欺ということは全然気付いていませんでした。翌日息子から、同級生のLINEグループで代後半から代の宇土高校の卒業生の自宅に、詐欺の電話がかかってくるというLINEが来たから気をつけてねって。やっぱり気をつけなきゃいけないとじみじみ思いますね。恐いですね」 警察は「電話で『お金』の話が出たら詐欺を疑うこと」や「息子などを名乗ってもいったん電話を切り、登録している番号にかけなおす」など対策をとるとともに、宇土高校卒業生とその家族にも呼び掛けてほしいとしています。 熊本県内の今年の電話で「お金」詐欺の被害は38件、被害額は約1億3600万円にのぼり、前年同時期の2倍を超えています。 さらに、新たに熊本市在住の高齢女性2人があわせて約1億4600万円をだまし取られる被害があったと8日に発表され、少なくとも3億円近い被害となっています。