先生は骨折しても泣き寝入り?学校の異常な実態 保護者クレームに追いつめられて疲弊する現場

学校現場には、生徒からの暴力、保護者からの無茶なクレームなど、過酷な労働環境を強いられている教師が中にはいる。そのため、保護者に訴えられた時に備え、裁判保険に入る教師も少なくないという。ここでは、そんな学校現場の実態に迫るべく、10年以上中学校教諭を務めた静岡の元教師すぎやまさんの実体験に基づいた著書、『教師の本音 生徒には言えない先生の裏側』の一部を再編集して紹介する。 生徒ではなく、教師が被害者になることもあります。これは私自身が実際に経験したことですが、ある時、学校で生徒が大暴れしたことがありました。その生徒は過去にもたびたび癇癪(かんしゃく)を起こし、暴力を振るったり、物を壊したりするような子でした。 もちろん、学校側でも、その子の特性をできるだけ把握し、対策はとっていますし、本人にも保護者にも何度も話はしています。しかし、それでもなかなか収まらない。 そこでその時も先生が何人かで止めに入ったんですが、その日の暴れっぷりはいつも以上でした。その生徒、階段の上まで一気に駆け上がったかと思うと、いきなり階段上から学年主任に向かって跳び蹴り!をくらわせたんです。学年主任の先生は、あばら骨を折る大ケガをしてしまいました。 もちろん、学校側がその生徒の特性を理解し、最大限の対策をとる必要があったでしょう。でもこれ、普通に暴力事件ですよね? たとえば、市役所の中で市民が暴れて、市職員があばら骨を折るケガをしたとなったとします。おそらくすぐに警察に通報され、暴れた人は即連行されるでしょう(もちろん、生徒の特性を把握している学校と、前情報のない市民の対応をする市役所では状況は同じではないですが)。 でも学校では、ケガ人も出る暴力沙汰のような重大事件が起こっても、警察を呼ばないこともあるんです。なぜなら、大ごとにしたくないからです。 先ほどのケースでは事件の後、緊急の職員会議が開かれて、先生たちが集められました。そこで教頭から「今日こういうことがあったので、これから家庭訪問をして保護者の方にも事情を話し、対処していきます」という説明がありました。そこで私は居ても立っても居られず手を挙げて訊きました。 「なんで警察を呼ばないんですか? 骨折してるじゃないですか、傷害事件ですよね?」と。すると教頭が校長にヒソヒソ耳打ちして、「そこも含めて今検討中なので……」と返ってきたんですね。 結局、この件が警察沙汰になることはないままでした。学年主任は自分で病院に行って、自分でお金を払って治療を受けたんです。もちろん労災が下りることもありませんでした。 労災が下りるには、事件を公にしなければなりません。でも学校は、それをやりたがらないんです。なぜこのようなことになるのか? それは「生徒を犯罪者にするのか?」という声が保護者はもちろん、校内からも上がるからです。 学校が生徒を警察に突き出したら、生徒を犯罪者にしてしまう。生徒の将来を潰すわけにはいかない……と強く主張するような先生は、必ず一定数存在します。「あの学校から逮捕者が出た」と言われたくないと、体裁を気にする先生もいますね。 でも私は思うんです。「学校は治外法権にしちゃいけない」と。学校の中だろうが外だろうが、事件を起こしてしまったら、きちんと法の下で平等に裁かれるべきです。 市役所の職員が市民から跳び蹴りをされて骨をへし折られたら、即警察を呼ぶでしょう。蹴った人の将来がどうなるかなんて関係ありませんよね? それが社会の常識なんです。 ただ学校がちょっと特殊なのは、まだ善悪の判断がつかない未成年の子どもたちを預かっている教育の現場であるという点です。そのせいで、警察を呼ぶかどうかの判断がとても難しい場面もたしかにあります。 「指導の方法が悪かったのじゃないか?」 「前途のある子どもを犯罪者にするのか?」 「教師の対応にも問題があったんじゃないか?」 そんな声が必ず出てきます。そのせいで結果として、たとえ暴言を吐かれても、授業を妨害されても、暴力被害に遭っても、多くの教師は泣き寝入りせざるを得ない。そんな悲しい現実があるのです。

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