昨年の訪日客数が過去最高の3686万人に達し、オーバーツーリズム(観光公害)対策が急務となる中、京都の古刹(こさつ)で憂慮すべき事態が起きた。中国人観光客が休山日(定休日)だった寺の境内に石垣をよじ登って侵入し、建造物侵入容疑で逮捕された。寺では同様の不法侵入が相次ぎ、対策を模索していた矢先のこと。「本当に腹が立つ」と住職。2025年大阪・関西万博が開催中の今、観光客の増加に伴う混雑やマナー違反への啓発が求められそうだ。 京都市右京区にある愛宕(おたぎ)念仏寺は、境内に表情豊かな1200体の羅漢石像があることで知られる。近年は観光スポットとして取り上げられる機会も増え、寺によると1日千人を超える人が訪れていた。西村公栄住職によると、観光客が増えすぎて家族で切り盛りできなくなり、運営が困難となったため今年から週1回の休山日を設けるようになった。 そんな事情をあざ笑うかのように、休山日だった4月2日午後、境内に鳴るはずのない鐘の音が響いた。自宅でくつろいでいた西村住職が駆けつけると、2人の人物がいた。1人はその場から逃げ、残った1人に西村住職は語気を強めた。「これは犯罪だ!」。だが言葉は通じない。駆けつけた警察官が連行し、建造物侵入容疑で逮捕した。 京都府警によると、逮捕されたのは中国籍の観光客の男性(28)で「寺が休みで門が閉まっていたため、悪いと分かっていたが塀を乗り越えて勝手に入った」と供述した。男性は石垣をよじ登って境内に侵入したとみられるが「窃盗やいたずらをしようとした意図はなかったようだ」(捜査幹部)。逃げた別の1人はすでに帰国したとみられ、男性も11日付で不起訴処分となった。 西村住職が腑に落ちないのは「悪いと分かっていた」との男性の認識だ。寺では、休山日を設ける前から同様の不法侵入が相次ぎ発生。境内は人気アニメにも登場することから、聖地を一目見たいと考える一部観光客が悪質行為を働いていたとみられる。「泥棒とは違いそこまで罪は重くない」(西村住職)とこれまで被害届を出すなどはなかったが、「『寺は閉まっている』と書いているのに侵入してくることが本当に腹立たしかった。(境内に)入られたくない時間に入られ、大変だった」(同)。 今回の事件は通り抜けされやすい場所に木を植えるといった対策を検討していた中で起きた。