トランプ米大統領は5月13日より中東3カ国を歴訪し、サウジアラビアおよびアラブ首長国連邦(UAE)との間で、経済・投資両分野における協定を締結した。英ロイター通信によると、歴訪初日の13日、サウジアラビアでは、総額6000億ドル(約87兆円)にのぼる対米投資を引き出し、1420億ドル(約20兆円)相当の武器売却に合意した。会談後、ムハンマド皇太子は、「この投資が最終的には1兆ドル(約145兆円)規模に達しうる」と強調した。米国側もテスラ、グーグル、オラクル、セールスフォース、AMD、ウーバーなど主要企業が今回の中東訪問に随行し、総額800億ドル(約11兆6000億円)の技術投資を表明し、サウジ国内におけるAI産業育成を後押しする姿勢を鮮明にした。米ニュースサイト「ポリティコ」が13日に報じたところによると、特に注目されるのは、米半導体大手「エヌビディア」が表明した「未来のAI工場」のサウジ建設構想。同国の政府系ファンドと共同で進められるAI事業の一環として位置付けられる。さらに、クアルコムやAMDも含めた米ハイテク大手が、サウジアラビアの新AI企業「ヒューメイン」との戦略的提携を発表している。 米国とカタール両政府は、航空機購入やエネルギー分野での協力を柱とする総額2435億ドル(約35兆円)規模の取引に合意した。合意の中核には、カタール国営のカタール航空による米ボーイング社製航空機の大規模発注が含まれており、最大210機の購入が盛り込まれている。トランプ氏は15日、UAEとの間でも2000億ドル(約29兆円)規模の取り引きを発表。米CNNによると、AI半導体の輸出については、エヌビディア製の最先端半導体100万個超の輸入を容認する方向で検討が進められている。UAEは今後10年間で、米国のAI関連などに200兆円以上の投資を確約している。 トランプ氏は中東歴訪の一環としてサウジアラビアを訪問した5月13日、米政権は先に発表していた最先端AI半導体の輸出規制の一部を撤回する方針を発表した。関係者によれば、現行の輸出規制から脱却し、今後は各国・地域との個別交渉による調整へと転換を図る意向があるとされている。バイデン前政権は今年1月、エヌビディア製の高度なAI半導体を中心に、対中抑止を念頭に置いた輸出規制を発表。世界の国・地域を3つのグループに分類し、輸出制限の厳格化を進めていた。このうち「第1グループ」は輸出制限の対象外とされ、日本、韓国、台湾などG7諸国を含む19カ国・地域が該当。一方、「第2グループ」はインドやブラジル、そして今回、トランプ大統領が訪問したサウジアラビアおよびアラブ首長国連邦(UAE)など、約120カ国・地域を対象に、輸出量の制限が設けられていた。さらに、「第3グループ」には、中国、ロシア、北朝鮮、イランなど24カ国・地域が含まれ、これらの国々への輸出は事実上、禁止されている。この新たな規制措置は5月15日の発効を予定していた。 米国から中東湾岸諸国へのAI(人工知能)半導体の輸出をめぐり、米政府内で安全保障上の懸念が高まっている。5月16日付の米ブルームバーグによると、湾岸諸国に供給されたAI半導体が、最終的に中国の軍事・技術的な利益に資する可能性があるとして、一部の米政府当局者が中東との輸出契約の進展を抑制する動きを強めている。懸念の背景には、中国の通信機器大手「ファーウェイ」によるAI半導体の開発加速があるとされている。米商務省は既に、AI半導体「アセンド」をはじめとする、ファーウェイ製AI半導体の使用が確認された場合、例外なく世界各国を対象に、米国の輸出管理規則に違反するとの指針を発表した。 米中間の先端技術を巡る対立はトランプ政権の1期目に端を発する。2018年8月、トランプ氏は国防権限法に署名し、安全保障上の理由から、中国企業との取引制限を法制化。同年12月には、当時のファーウェイの副会長だった孟晩舟氏が、米国の要請によりカナダで逮捕され、米中関係は一気に緊張を高めた。その後も、米国はファーウェイに対し、電子部品やソフトウエアの輸出を禁止する規制・制裁措置を継続している。4月27日付の米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、ファーウェイが最高性能を誇るAIチップ「アセンド910D」の試験を開始したと報道。同チップは、米エヌビディア社のハイエンド製品「H100」を上回る性能を目指して設計されている。さらに、中国政府は、自国AI開発企業に対して、国産チップの購入を奨励しており、国家戦略としての技術的な自立を加速させている。 ★ゲスト:小谷哲男(明海大学教授)、鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授) ★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)