資源ごみ持ち去り、各地で急増 垣間見えるウクライナ侵攻の影

家庭ごみの持ち去りに関する相談が全国の自治体で相次いでいる。福岡市では2024年度の相談件数が4年前の15倍超に急増。対策強化のため、ごみ捨て場を巡回していた市職員が暴行される事件まで起きた。ごみの持ち去りはなぜ増えたのか。背景として浮かび上がってきたのは世界的に大流行したウイルスや、長引く戦争の影だった――。 「持ち去ってはだめですよ」。24年12月下旬の昼下がり。福岡市南区の細い路地に面したマンションのごみ置き場で、市収集管理課の男性職員の声が響いた。アルミ缶が詰まった不燃ごみ袋を手にした男性が軽乗用車に乗り込み、逃げようとしていた。引き留めようとした職員は胸を押された上、服の袖を引っ張られ、もみ合いに。約5分後、職員らが2人がかりで男性を取り押さえ、福岡県警に身柄を引き渡した。県警は暴行容疑で20代男性を現行犯逮捕した。 市によると、軽乗用車の後部座席には大量のアルミ缶が入った不燃ごみ袋が5個ほど積まれていた。男性はごみの持ち去りを繰り返していた疑いがあり、過去に市側から3度、口頭や文書で注意を受けていた。 福岡市によると、家庭ごみの持ち去りに関する相談件数は20年度は39件だったが、その後に増加。23年度は11倍超の449件、24年度は15倍超の620件に膨らんだ。 福岡市に限ったことではない。環境省が22年9月、全国1741市区町村を対象に空き缶などの「資源ごみ」の持ち去りについて調べたところ、729市区町村(41・9%)が「持ち去り事案がある」と回答。都道府県別の割合で上位だったのは大阪府93・0%▽滋賀県78・9%▽東京都77・4%▽埼玉県76・2%▽愛知県75・9%――の順で、都市部が目立つ。 持ち去られたごみの種別では「空き缶」が最多で342市区町村に上り、古紙や金属類が続く。持ち去りにより、多くの自治体が周辺住民からの苦情対応などを余儀なくされていた。 不燃ごみを持ち去り、回収業者に売る悪質行為は以前からあったが、急増の裏にはアルミニウムの価格高騰があるようだ。福岡県でアルミ缶を買い取る産業廃棄物処理会社によると、20年はアルミ缶を1キロ55円で買い取っていたが、現在は1キロ170円と3倍超に跳ね上がっているという。 価格の上昇が始まったのは、中国・武漢市で確認された新型コロナウイルスが20年に国内で流行し始めた時期と重なる。22年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まると、さらに高騰。ロシアと中国はアルミの産出国であり、供給不足の懸念が拡大したことが背景にあるようだ。これが日本でアルミ缶ごみの持ち去りが急増する一因にもなったとみられる。産廃業者の女性従業員は「個人でアルミ缶を60キロほど売りに来る人もいる」と話す。 持ち去り行為の横行は、自治体の収入にも影響を及ぼす。福岡市によると、不燃ごみ処理施設の運転費は年間約5億円(23年度)かかり、回収した資源ごみの売却益で一部を賄っている。アルミ価格の高騰で本来ならば売却益は増えるはずだが、21年度が約1億1200万円だったのに対し、23年度は約7600万円に減少。持ち去り被害により、売却できる資源ごみが少なくなった影響とみられる。 環境省の調査では、ごみの売却量の減少により「収入減少」を訴えた自治体は283市区町村に及んでおり、深刻な状況だ。【栗栖由喜、佐藤緑平】

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