東京メトロ南北線東大前駅(東京都文京区)で、男性客が刃物で襲われた事件で、東京地検は21日、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された男(43)の鑑定留置を始めた。男は親から受けた「教育虐待」を世間に訴えるために犯行に及んだと供述しているが、経済的な困窮が背景にあった可能性も指摘されている。2カ月間の鑑定留置で事件当時の精神状態を調べ、刑事責任能力の有無を判断する。 ■当日に上京、東大を散策 男は長野県生坂村の無職、戸田佳孝容疑者。4年ほど前に東京から移住し、1人で暮らしていたとみられる。捜査関係者によると、自宅は段ボールなどがあふれ、雑然とした様子だったという。「自営業」を自称していたが、定期的な収入はなかったとみられる。 犯行当日の7日は、早朝に長野県内の駅から電車に乗り込み、東京へ。自宅からは包丁2本を持ち出していた。JR高尾駅で下車した後、新宿駅に立ち寄るなどし、同日午後4時半ごろに東京大本郷キャンパスに到着。1時間以上滞在して食堂で名物の「赤門ラーメン」を食べたり、散策したりしていたという。 東大前駅へ移動して犯行に及んだのは、同日午後6時55分ごろ。電車に乗り込もうとした男子大学生に背後から無言で切り付け、全治不詳のけがを負わせた。電車内で容疑者を取り押さえた客も指にけがをした。 ■「世間に示す」ための犯行、引き金は 容疑者は逮捕直後は黙秘していたが、自身の生い立ちについて語り始める。過去に親が教育熱心で不登校になったとして「東大を目指した教育熱心な親たちに、度が過ぎると私のように罪を犯すと世間に示したかった」と動機を供述した。 東大前駅での犯行について、駅名から「教育虐待を連想しやすいと考えた」とする一方、男子大学生を狙ったのは「理由はなく、たまたま近くにいたから」と無差別であったことも示唆した。 「両親に毎月仕送りをもらっていたが、父親が亡くなってから定期的にもらえなくなった」。直近の生活状況について、こう説明しているという容疑者。捜査関係者は「教育虐待を訴えたいということだけでなく、経済的に困窮し、親への当てつけで犯行に及んだ可能性もある」とみている。(前島沙紀、梶原龍)