米捕虜生体解剖事件で資料展 手術立ち会いの故東野医師が収集 発生から80年・九大

太平洋戦争末期の1945年、九州帝国大(現九州大)で米兵捕虜8人が実験的な手術を受け死亡した「九大生体解剖事件」で、当時医学生として手術に立ち会った故東野利夫医師=2021年に95歳で死去=が生前に収集した資料が、「九州大学医学歴史館」(福岡市東区)で展示されている。 九大の担当者は「過去の教訓を学び、医学や平和の教育に生かしていきたい」としている。 展示されているのは、東野さんの遺族が24年に九大に寄贈した約300点の資料の一部。手術が行われた「解剖実習室」の場所が手書きで記された校舎の見取り図や、逮捕後に自殺した執刀医の遺書のコピーなどが含まれる。 戦後、事件の目撃者として連合国軍の取り調べを受け、九大関係者が裁かれた法廷で証言もした東野さん。裁判後、事件の詳しい経緯を知りたいと、米軍のB29爆撃機が墜落した熊本、大分両県境付近に何度も足を運び、捕虜が連れ去られた場面を地元住民から聞き取るなど、熱心に事件の真相に迫ろうと試みた。 収集した資料を基に執筆した事件に関する著書「汚名」は79年に出版された。九大はこうした東野さんの活動を「社会的に意義深く、資料の学術的価値は高い」と評価する。 九大では事件当時、海軍大将が総長に就いていた。東野さんの著書などによると、軍が大学を実質的な管理下に置いており、軍主導で手術が行われたとみられる。ただ、執刀医の教授が裁判前に自殺するなど、手術に至った詳細な経緯は分かっていない。 寄贈された資料の整理に携わった医学部6年の中嶋涼子さん(25)は「戦時下で、強制されれば流されてしまう人もいるだろう。医師としてきちんと倫理観を持たないといけないと改めて誓った」と話した。 東野さんの長男で医師の純彦さん(68)は今回の展示について「父は非常に喜んでいると思う。若者を中心に幅広い世代の人に事件について知ってほしい」と求めた。 展示は6月22日まで。

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