【交通違反まとめ】「罰金」、「反則金」、「放置違反金」、その決定的な違いは?

「罰金」、「反則金」、「放置違反金」、どう違うのか、私は長年にわたり何度も何度も書いてきた。同じネタをなぜ何度も? やっぱり、新たにクルマ、バイクの運転を始める人が毎年たくさん現れ、かつ毎年多くの交通取り締まりが行われるためかと。 今回は、交通違反の3つの金銭ペナルティを、登場順に、以下の目次にしたがってご説明しよう。 罰金(1) 刑罰であり裁判を経て科される 罰金(2) 払わなければ労役場留置 反則金(1) 軽い違反に対する特別なペナルティ 反則金(2) 犯罪全体の罰金より多い 放置違反金(1) 違反車両の持ち主に対するペナルティ 放置違反金(2) 納付しなければ滞納処分=差し押さえ 放置違反金(3) 取り締まりを行った都道府県の収入に 罰金、反則金、放置違反金、まとめ ■罰金(1) 刑罰であり裁判を経て科される 法務省の資料を見ると、罰金の登場は「刑法(明治13年太政官布告第36号)」からだ。それ以前の刑罰は、こうだったという。 ※明治13年=1880年 「笞」(ち。むち打ち) 「杖」(じょう。つえ打ち) 「徒」(ず。現在の拘禁刑) 「流」(る。いわゆる島流し) 「死」(し。「絞」と「斬」) 「道路交通法」(以下、道交法)の施行は1960年12月20日だ。その時点で、交通違反のペナルティとして罰金はあった。そもそも罰金とは何か。刑法でこう定められている。 (刑の種類) 第九条 死刑、拘禁刑、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。 ※2025年6月1日、「懲役、禁錮」が「拘禁刑」に改められた。 罰金は、死刑や拘禁刑と並ぶ刑罰の一種。刑罰は必ず裁判の手続きを経て科される。罰金刑を科す裁判は2種類。通常の裁判(いわゆる正式)と、略式の裁判だ。正式の裁判は法廷を開く。略式は開かない。 2023年の最高裁の統計によれば、道交法違反により正式の裁判で罰金刑となったのは239人。略式では8万8411人。罰金刑は基本的に略式で処理するんだね。 罰金刑を受けたことは「前科」として記録される。前科という語は刑法にも刑事訴訟法にもないが、現実の裁判には普通に出てくる。「被告人は前科3犯。うち交通罰金前科が1犯」などと。 罰金は国庫に入り、一般財源となる。法務省によると、交通違反を含むすべての犯罪の、2023年度の罰金刑の執行状況はこうだ。 執行件数 16万322件 執行金額 354億501万8千円 ■罰金(2) 払わなければ労役場留置 罰金を払わないとどうなるのか。裁判が正式でも略式でも「被告人を罰金×万円に処する」のあとに、必ず以下の一文がつく。 ※被告人=起訴された人 「その罰金を完納できないときは、金×円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する」 ※最近、「金」の1文字を省く言い渡しを何件か傍聴した。 「×円」の部分は、交通違反では通常5000円だ。ネットでは「罰金を払わなかったら日給5000円で強制労働だあ!」とか言われるが、それは違う。財産刑を執行できない場合に、自由刑に換えて執行するのである。「換刑(かんけい)」という。自由を奪う期間を1日5000円換算で決めるってことだ。「労役」は封筒貼りなどの軽作業で、労働と呼べるほどのものではない。 ■反則金(1) 軽い違反に対する特別なペナルティ 反則金は1968年7月1日に登場した。なぜその時期だったのか、反則金とはそもそも何か、以下の記事に詳しく書いた。 ・反則金を払わないと逮捕される? そもそも反則金って何?【交通違反の基礎知識・その1】 反則金の払い方、払わないとどうなるのか、といったことは以下で解説した。 ・慌てずにすむ反則金の払い方、「青切符」以外に「ピンク切符」も!? 【交通違反の基礎知識・その2】 ・軽い交通違反…出頭拒否を続けると逮捕される?【交通違反の基礎知識・その3】 ・「違反が事実ならアウト」は大ウソ。交通違反の不起訴の93%は「起訴猶予」【交通違反の基礎知識・その4】 ・データで見た「青切符の人の不起訴率は100%に近い」という事実【交通違反の基礎知識・その5】 要するに反則金は、軽微な違反(=ほとんどの違反)について「取り締まりに不服はない。ちゃちゃっと金を払って終わらせたい」という人のための、特別なペナルティだ。 反則金は刑罰ではない。裁判の手続きを経ずに払える。罰金と違って前科にならない。払うかどうかは任意だ。が、義務と思い込んでいる人が多いようだ。 ■反則金(2) 犯罪全体の罰金より多い 警察庁の統計によれば、2023年、赤切符の違反と青切符の違反の取り締まりの、総数は約448万件。反則金の対象となるのは青切符のほうで、その割合は2022年(それが現時点で最新データ)は96.7%だ。95%を下回ったことは一度もない。 反則金の納付率は、2021年(同じく最新)は98.2%で、納付額は約501億円。2021年度の罰金刑の執行金額は約357億円だから、年度と歴年は違うけれども、犯罪全体の罰金の総額より、交通違反の反則金のほうがずっと多いんだね。 反則金は警察官のお小遣いにはならない。いったん国庫に入ってから「交通安全対策特別交付金」として都道府県等に交付され、信号機や標識など交通安全施設に支出される。 ■放置違反金(1) 違反車両の持ち主に対するペナルティ 禁止場所に駐車したうえで、運転者が車両を離れて直ちに運転できない状態の駐停車違反、それを「放置駐停車違反」(以下、放置違反)という。2006年6月1日、放置違反について新しいペナルティが加わった。 あなたがあなたのクルマで放置違反をしたとしよう。用事が終わってクルマへ戻ったら、黄色い駐禁ステッカー(放置車両確認標章。以下、確認標章)がフロントガラスにぺたり貼られていたとしよう。 確認標章には「運転するときは自分で標章を剥(は)がしてください」という趣旨が印刷されている。剥がして、どうするか。2つの道がある。 A)警察へ出頭する。 B)剥がした確認標章を捨て、出頭しない。 Aを選ぶと、原則として、違反者であるあなたは違反切符を切られ、反則金の納付書を交付される。払っても払わなくても、違反点数が登録される。次の免許更新のとき、ゴールド免許の人はゴールドでなくなる。 Bを選ぶと、違反車両の持ち主(車両ナンバーから判明)であるあなたへ放置違反金の納付書が郵送されてくる。金額は反則金と同じだ。納付すれば違反処理は終了。誰にも違反切符は切られない。よって違反点数の登録もない。ゴールド免許の人はゴールドのままでいられる。もちろん前科にもならない。 ■放置違反金(2) 納付しなければ滞納処分=差し押さえ 放置違反金の納付は任意ではない。都道府県の公安委員会による「納付命令」を受けて納付する。多くの場合、まず納付し、事後に納付命令を受ける。具体的には警察が、納付命令の番号をだーっと記載した紙を束ね、掲示板にぶら下げて公示する。そんなの、普通は誰も見ない。 納付しない場合、警察は「滞納処分」をすることができる。基本的には、不納付者の預貯金から、滞納分と、年利14.5%以内の延滞金と、手数料の合計額を差し押さえる。自動引き落としのようなものだ。 預貯金がないときは、動産を差し押さえて売却する。クルマやフィギュアをネットオークションで売却したとかときどき報道される。差し押さえのチームがドカドカやってくると、びびって現金を払う不納付者が多いらしい。 情報公開法に基づく開示文書によれば、2023年の滞納処分は全国で9372件。東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫がそれぞれ1000件を超えている。 ■放置違反金(3) 取り締まりを行った都道府県の収入に 放置違反金は国庫へは行かない。取り締まりを行った都道府県の収入になる。2006年6月1日にこの制度が登場したとき「財政難のおり、天恵(天の恵み)だ」と喜んだ自治体もあった。 2007年の納付命令は235万3830件。1件1万5000円とすれば約353億円。ところが、運転者たちが警戒を強めたか、景気が冷えたか、駐車取り締まりはぐんぐん減った。2024年の納付命令は、たった63万5787件。1万5000円を掛ければ約95億円。駐車監視員への委託費で赤字の自治体もある。 ・参考記事 駐車取り締まりの民間委託、じつは大赤字の県も! それでも辞められない実情 ■罰金、反則金、放置違反金、まとめ 要点をまとめよう。 罰金 = 刑罰であり前科になる。 反則金 = 納付は任意。払わない場合は刑事手続きへ。 放置違反金 = 放置駐停車違反限定の、車両の持ち主に対するペナルティ。 交通違反の3つの金銭ペナルティは、法的な性質がまったく異なる。払わなかったらどうなるかもぜんぜん違う。間違って報道されることもたまにある。正しい知識を身につけ、すっきり見通しをよくして、安全運転でいきましょう。 文=今井亮一 肩書きは交通ジャーナリスト。1980年代から交通違反・取り締まりを取材研究し続け、著書多数。2000年以降、情報公開条例・法を利用し大量の警察文書を入手し続けてきた。2003年から交通事件以外の裁判傍聴にも熱中。交通違反マニア、開示請求マニア、裁判傍聴マニアを自称。

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