無理な筋書きで突き進んだ違法な捜査を、控訴審はより厳しく指弾した。 警察と検察は重い判決を受け入れ、無実の罪を着せた人々に謝罪した上で、組織の根本から検証と改革をすべきだ。 機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)を巡る冤罪(えんざい)事件である。 生物兵器へ転用される恐れのある装置を不正輸出したとして、社長らが外為法違反の容疑で警視庁公安部に逮捕・起訴され、その後、起訴が取り消された。社長らが東京都と国を訴えた控訴審で、東京高裁は一審に続き逮捕・起訴を違法と認め、賠償を命じた。 焦点となった公安部による輸出規制の判断について、高裁は経済産業省から問題点を指摘されたのに再考せずに逮捕した、と批判した。 検察も装置内の温度測定など必要な検証を怠っており、違法だとした。一審が「不合理ではない」とした独自解釈の正当性について、より踏み込んで否定した。 また、公安部が通常求められる追加捜査をせず、「偽計的な説明をし、犯罪事実を認めるかのような供述内容に誘導した」と非難。一審に続き捜査や取り調べの違法性を断じた。 一、二審とも公安部の捜査員らが事件を「捏造(ねつぞう)」と証言した。その言葉通り、無理筋でも「立件ありき」で、一度方針を決めたら変えない捜査の暴走であったことが認定された形である。 冤罪事件は、第2次安倍晋三政権が経済安全保障の強化を図る中で起きた。公的機関や企業の情報、技術を盗むスパイ行為を摘発する公安が忖度(そんたく)し、結果を急いだ面が否めないのではないか。 警察と検察は起訴取り消しから4年たっても、経緯の検証に手を付けていない。反省する気があるのかさえ疑わしい。 裁判所の責任も問われねばならない。 無実を訴える社長らの保釈請求を5度にわたって却下し、拘束は11カ月に及んだ。拘留中に胃がんが見つかった元顧問も保釈が認められず、適切な治療を受けられないまま亡くなった。 否認し続ければ身体拘束が長引く「人質司法」の問題は明らかだ。24年の保釈率は容疑を認めた場合の34%に対し、否認は27%と低い。制度運用を見直す必要がある。 相次ぐ冤罪や不祥事で、刑事司法全体への国民の信頼が揺らいでいる。その病巣から目をそらし続けることは許されない。