【解説】 アメリカ大統領はどういう場合、アメリカ国内に州兵を派遣できるのか

ブランドン・ドレノン(米首都ワシントン) ドナルド・トランプ米大統領は8日、アメリカ第2の規模の大都市ロサンゼルスに、州兵2000人を派遣したと発表した。ロサンゼルスでは、連邦当局による不法移民の一斉摘発に対する抗議デモが続いており、参加者らと当局の衝突が続いている。 「とても強力な法と秩序」をロサンゼルスで維持するために州兵を投入するというトランプ氏の決定は、カリフォルニア州のギャヴィン・ニューサム州知事の権限に優越する形で行われた。ニューサム知事は、州兵投入について「意図して扇動的」だと反発している。 ロサンゼルス市内各地でここ1週間の間に行われた移民摘発活動で、少なくとも118人の移民が逮捕された。これを受けて、当局が強制捜査したとみられる店舗の外にデモ参加者が集まり、当局との衝突が起きた。 ロサンゼルス郡保安局は、群衆が「興奮の度合いを増し、物を投げたり暴力的な行動をとったりした」ため、警察は催涙ガスや閃光(せんこう)手りゅう弾などを使用したと述べた。 ニューサム知事やロサンゼルス市のキャレン・バス市長、カリフォルニア州選出のマクシーン・ウォーターズ下院議員(3人とも民主党)はそれぞれコメントを発表し、地元警察が抗議活動に対処できるはずだと主張した。 地元当局によると、29人が逮捕された。 ■大統領に州兵派遣の権限はあるのか トランプ大統領は混乱を鎮めるため、一定の状況下で州兵を連邦政府の指揮下に置くことを大統領に認める連邦法に基づき、州兵派遣を命令した。この連邦法が実際に適用されるのは、きわめて異例。 州兵は、州と連邦の両方の利益に奉仕する、複合的な組織として機能する。通常は知事の要請に応じて出動する。 トランプ大統領は今回、大統領が州兵を連邦政府の指揮下に置くことができる三つの状況を列挙した合衆国法典第10編第12406条に基づき、知事の要請という手順を回避した。これによると、アメリカが「外国に侵略されているもしくは侵略される危険がある場合」、政府に対する「反乱もしくは反乱の危険」がある場合、あるいは「大統領が通常当局によって合衆国の法律を執行することができない」場合に、州兵を連邦政府の指揮下に置くことが認められる。 トランプ氏は州兵の出動を要請した覚書で、ロサンゼルスでの抗議行動は「合衆国政府の権威に対する反乱の一形態にあたる」と述べた。 今回のロサンゼルスにおける州兵の役割は、移民関税捜査局(ICE)や国土安全保障省などの連邦職員に、職務遂行の際に警護を提供することだ。 州兵の部隊は独自に移民を摘発したり、民間人に対する通常の法執行活動を行ったりすることはない。 アメリカの法律は一般的に、反乱法などの例外を除き、国内の捜査・法執行活動に連邦軍を投入することを禁止している。 トランプ大統領は、例えば2020年のブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)抗議運動が国内全土に広がった際、反乱法の発動を脅したことがある。しかし、今回はそうしていない。 複数の専門家によると、州知事の要請なしに州兵が動員されるのは1965年以来初めてだという。 1992年には、車両運転中に警察の取り調べを受けた黒人男性ロドニー・キング氏に対して、警官たちが暴行罪で無罪となった後、ロサンゼルスで暴動が発生し、連邦法のもとで州兵が投入された。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領(当時)はこの時、ピート・ウィルソン・カリフォルニア州知事(同)の要請を受けていた。 2020年には黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官の殺害された事件を受けて、国内各地で抗議が広がり、一部の州に州兵が派遣された。 ■トランプ大統領の命令に当局者たちは トランプ政権の高官たちは、大統領による州兵派遣の決定を支持した。ピート・ヘグセス国防長官はソーシャルメディアで、これは「常識」だと書き、「連邦職員や連邦施設に対する暴力や破壊行為は容認されない」と述べた。 ヘグセス長官はまた、ロサンゼルスに近いペンドルトン基地に駐留する現役の米海兵隊員は「厳戒態勢」にあり、必要となれば派遣する用意があると明らかにした。 オクラホマ州選出のマークウェイン・マリン上院議員(共和党)はCNNに対し、「(抗議活動は)制御できているように見えるか? まったくそうは見えない」と述べた。 これに対してカリフォルニア州の当局者たちは、騒乱対応は地元警察で十分可能で、軍の介入は不要だと主張している。 抗議活動が行われているロサンゼルス郊外パラマウントが選挙区に含まれるナネット・バラガン下院議員(民主党)はCNNに対し、「援助は必要ない」と述べ、 州兵は「事態を悪化させるだけだ」と話した。 ニューサム州知事も同様に州兵派遣に反対し、「連邦政府はカリフォルニア州兵を自分たちの配下に置き、ロサンゼルスに兵2000人を派遣している。これは警察の能力が足りないからではなく、派手な見世物にしたいからだ」とソーシャルメディアに書いた。 ロサンゼルスのバス市長はABC7ニュースに対し、州兵は不要だったと話した。 ■ICEはロサンゼルスで何を ICEの職員は6日、トランプ政権の不法移民取り締まりの一環として、ラティーノ(中南米系)住民が多く住むロサンゼルス市内各地で摘発を実施した。 ICE傘下の国土安全保障捜査局(HSI)報道官は、44人が逮捕されたと明らかにした。 トランプ氏はアメリカ史上最大の「国外追放作戦」を実施すると公約しており、一連の摘発はその一環。 ロサンゼルスは 人口の3割以上が外国生まれのため、トランプ政権のこの政策が集中的に実施されている。 ICEは5月初旬、ロサンゼルスとその周辺で1週間にわたり摘発を実施し、不法移民239人を逮捕したと発表した。ただし、全国的な逮捕・国外追放の人数はトランプ大統領の期待を下回っていた。 このためホワイトハウスは5月下旬にはICE職員に対し、1日あたり少なくとも3000人を逮捕するよう命じた。 このため移民取り締まり当局は、捜索範囲をレストランや小売店などの職場へと拡大している。今回のロサンゼルスでの抗議活動のきっかけは、衣料品卸売業者と大型ホームセンター「ホーム・デポ」の店舗で従業員が捜索対象になったことだった。 トランプ政権で国境警備を担当するトーマス・ホーマン氏は、 「この国の歴史でかつて見たこともないほど、職場での取り締まりが強化されることになる」と発言している。 政権の大規模な国外追放作戦の一環で、移民をまとめて軍用機に乗せてグアンタナモ基地に送った後、ルイジアナ州に連れ戻すことも行われている。 政権はこのほか、移民を中米エルサルバドルの巨大刑務所に強制移送しており、その中には合法的にアメリカに滞在していた人が少なくとも1人含まれている。出身国以外の国に送られた移民もいる。 トランプ政権によるこうした措置の多くが、法廷で争われている。 ■ロサンゼルスでの反応は トランプ政権の移民摘発にロサンゼルスで抗議する人たちは6日、衣料品卸売店の外で連邦捜査員と衝突した。デモ隊は捜査員たちに物を投げつけ、逮捕を阻止しようとした。 これに対し、暴動鎮圧用の装備を身に着けた当局は閃光手りゅう弾と催涙スプレーを使用して群衆を鎮圧した。 ロサンゼルス中心部から南に約30キロ離れたパラマウントにあるホーム・デポ店の外では7日、抗議者らに対し催涙ガスと閃光弾が使用された。 ICEは7日の現場の様子について、「我々の勇敢な警官たちは数の面で圧倒的に劣勢だった。1000人以上の暴徒が連邦政府の建物を包囲し、攻撃した」と、ソーシャルメディアに書いた。 この抗議について、ロサンゼルス市警は29人を逮捕したが、いずれも軽罪にあたる解散命令違反が逮捕理由だったという。BBCが提携する米CBSニュースが報じた。 抗議活動3日目の8日には、州兵がロサンゼルスに到着し、中に留置施設のある連邦政府ビルの外で、抗議者たちを取り囲んでいる様子が確認されている。 特に緊迫したやり取りの一つでは、国土安全保障省のバッジをつけた連邦職員が群衆に向けて催涙ガスやペッパースプレー、そして何らかの非致死性の弾丸と思われるものを発射していた。 (英語記事 When can a president deploy National Guard on US soil? )

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